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Day by Day・22
(22)

湿気踏んだ木の椅子に煙草の臭いが染みつき、壁という壁が、元の色が何色だったかを判断できないほどに煙に燻された狭い部屋。換気はバーの奥にある猫の額ほどのキッチンと、地上へと繋がる階段のみ。
蒸しかえる室内に深夜0時を過ぎたこの店には、店のオーナーと4人しか座れない、少し斜めになったカウンター席にアランが1人。そして・・・見るからに怪しげな、夏の夜に黒のスーツをきっちりと着込んだ男が3人がテーブル席にいた。

男達はアランの様子を先刻から伺っていた。

「ヤツでどうだ?」
「ああ、年齢的にもいいんじゃないか?」
「・・・・こんなところに居るんだ、そう足もつかないだろうが、女がいいらしいからな。今回は」
「女か、面倒だな」
「じゃ、ヤツはやめとくか?」
「昨日もいただろ、アイツ?ターゲットが見つけられない場合は、アイツでいいだろう・・・」

「ぼくの名前は・・・アランだ」

のそり とカウンター席から虚ろな目で立ち上がり、黒スーツの男達のテーブルのそばに立つ。
聴こえてないと思われていたのか、それとも聴かれても気にする必要がないのか。アランは酔ってはいたが男達の話す言葉を聞き逃すほどではなかった。
ここ、3、4日店の開店と同時に店に入り、閉店と同時に店を去るアランは、この男達が常連ではなく自分と同じ時期にこの店に出入りし始めたことを、先刻、マスターに聴かされていた。

「・・・酔っぱらいの名前なんかに興味ない、向こうで飲んでな」

鷲鼻の男が感情なく言い捨てる。

「ぼくのこと・・はな、話していただろ?」
「・・・・」
「お、お前、お前らも、ぼ、ぼくが・・・ぼくがふ、フランソワーズを襲ったっ・て思ってるのか!!!!!」
「!」
「!」
「おい!」

アランは自分から見て右側に座っていた長身の男に向かって全身で殴りかかろうとした。が、男は見事にアランの拳を受け止めて、立ち上がって腕を彼の背中へとねじり上げた。

「あああああああっっっ」
「うるさい・・・酔っ払いが!」

遠慮無くねじり上げられたアランの腕が、肩から悲鳴を上げる。

「肩が!ぼくの肩が壊れる!!!! ぼくはダンサーなんだ!!肩が!あああっ肩が!!」
「ったく・・・」

男はアランを床に投げ捨てる。
アランは床に体を打ち付けて床に蹲りながら、痛む肩を庇った。

「ダメだな・・・こいつ、連れて行ってもすぐに廃棄処分じゃないか?」

髪の長い男が、喉を鳴らして嗤った。
床に蹲ったまま動かないアランのズボンの尻ポケットから覗く一枚の写真を、長身の男が引き抜いた。

「ほ、えらい美人な・・・・おおかた、この娘にでも振られんだろ?」

写真を2人に見えるようにテーブルにおいた。

「へえ、いいじゃねえか・・・」
「ダンサーか・・・鍛えられてんだろうな?ある程度は・・・普通の女と違ってよ」
「フランスのバレエ界ってのは、精神的にも肉体的にはかなりのもんらしいな・・・みんな、あのオペラ座のエトワールを目指して、毎日踊って、ライバルを蹴落とす・・・」
「ふ~ん、こんな美人が改造されたら・・・まるで映画みてえな話しだな」
「・・・永遠に年を取らない、美しいままな姿だ。遊ぶのにはもってこいだな・・・へへ。相手してもらいてぇぜ」
「年頃も良い感じだな?」
「おいっ・・・」

鷲鼻の男が足でアランを突いた。

「この娘、お前のガールフレンドか?」

アランの涙ぐむ目の前に写真をつきだしてみせた。
アランは慌てて写真を取り返そうと、傷まない方の腕を伸ばすが、鷲鼻の男は ひらり とその手を交わす。

「ま、飲もうぜ。・・・先に手を出したのはお前だぜ?」

長身の男はイスを引き寄せて、再びテーブルについた。
髪の長い男が、アランに席に着くようにすすめる。

「・・・話せよ。なんなら・・・・・・・オレらがお前の恨み?を晴らしてやってもいいんだぜ?」


にやり と嗤った男を見上げながら、アランは写真に写るフランソワーズを見た。
写真の中のフランソワーズは花が咲き乱れるように・・・鮮やかな微笑みをアランにむけている。


「フランソワーズ・・・・」


アランが最後に見たフランソワーズは、恐怖に目を閉じ、体を震わせ、腕で、全身で、こころで、フランソワーズ自身、すべてでアランを拒絶した姿。

「フランソワーズ・・・・訊いてくれ、ぼくは、ぼくは・・・キミを襲ってなんかないっっっっ」

「この娘のこと、詳しく訊かせろよ」
「悪いようにはしねえ。礼だって・・・それなりに、なぁ?」

男達の低い嗤い声が、不気味に床に響いた。

誰かに聴いて欲しい。
誰にも届かなかった、フランソワーズにさえも届かなかった、ぼくの気持ちを。
誰でもよかった。



誰でも。



それが、悪魔でも。


けれど・・・それが、それが!!「死の商人との取引」だったなんて・・・知らなかったんだ!!!!!



フランソワーズを連れ去っていく、黒いスーツの鷲鼻の男、長身の男、髪の長い男。
彼らは後にフランソワーズが得ていたアメリカ行きを、奨学金をぼくにくれた。
突然にかかってきた、身に覚えのない内容の電話と、届けられた書類。
何事もなかったようにぼくは、それが当然のように、まるでぼくが”フランソワーズ”であるかのように受け入れた。

誰も何も疑問をもたなかった。

ぼくはフランソワーズが行方不明になった。と、訊かされたままアメリカへ旅立つ。
黒いスーツの男達はいったい何者で、どこへフランソワーズを連れ去ったのか、ぼくは知らない。

警察もジャンも、フランソワーズの行方を必死で捜した。
ジャンは、フランソワーズが連れ去られていく場面に遭遇していた。
ジャンは時間が許す限り愛しい妹、ファンションを捜す。

ぼくもジャンと同じように「その場にいた」けれども、誰にも知られていない。
・・・・黒いスーツの男たちと交わした会話を、あの酒場での出来事を誰にも話していない。



話せるものか!!


話せるはずが・・・・ない。


私はジャンとは別に、単独で男達を探した。
あの、酒場にも足を運んだが男達は現れず、何の情報も得ることはできないままに数日後には、・・・潰れていた。マスターがどこへ行ったのか誰も知らなかった。

私が時間をかけて掴んだことは、"B.G(ブラック・ゴースト)死の商人”と言う組織の名前と、そのとてつもない・・・自分が生きる世界とはまったく別次元の・・・小説のような、現実感のない・・・世界の話し。

調べれば、調べるほど・・・恐くなった。
バレエ団に入団して、プロとなり・・・舞台に立つようになって数年が過ぎたとき。
鷲鼻の男か・・・3人のうち誰なのか、それとも3人ではない誰かからの電話を受け取った。

「・・・・いいか。せっかく手に入れた”幸運”を無駄にするな。これ以上、”組織”を調べ続けるなら、フランソワーズは・・・・永遠に帰ってこないぞ?チャンスがあればいつか・・・。いいか。これは最初で最後の警告だ」


チャンスがあれば?
彼女は、フランソワーズは帰ってくるのか?!


「彼女は美しい姿のまま、永遠の若さを手に入れて・・・眠っているよ・・・」

美しいまま?
永遠の若さ?


年令には、自然の摂理には逆らえず、体力の限界から引退を決意した年に、ジャン・アルヌールに数十年ぶりに手紙を送った。それは、クリスマスカードとなって返ってきた。

彼はフランソワーズを待ち続けていた。
私はフランソワーズを探し続けていたかった。

男の電話の後、組織を調べるのを止めた。
理由は簡単だった・・・警告の電話の後、組織は”見せしめ”かのように、それとも偶然だったのか?
住んでいたアパートが火災に遭い、すべてを、私が得ていたもの全てを焼き付くされた。
残ったのは、バレエ団のロッカールームに置いていた・・・数枚の彼女の写真。

私は写真の彼女に語りかける。
私は君のために、フランソワーズの代わりに生きてきたんだ。
フランソワーズが歩むはずの人生を、私は君のために歩んだ。

ああ、フランソワーズ、君はぼくであり、私が君だったんだね?
フランソワーズ、君が私の元へ戻ってきて初めて・・・・私たちの人生は完全になるんだ。



ああ、フランソワーズ。

私のフランソワーズ!

永遠の若さを手に入れて、どこに眠っているだい?
君を目覚めさせるために、ぼくはどこへ向かえばいいんだい?
君を手に入れるために、私はどこへ向かえばいいんだい?

戻っておいで、私のもとに。
私の全ては、君のものだよ、フランソワーズ。

わたしと、君は2人で・・・「あの日」から1つの人生を歩んできたんだよ。


思い出す「あの日」は8月17日の午前。

私は君のアパルトマンの隣の建物の物影から君を見送るつもりだった。
その後、どこにも現れることはなかった・・・君の写真と一緒に消えた黒ずくめの男達。

不安は現実のものとなる。

黒い車。
長身の黒いスーツを着た男。
強い蒼の瞳が私を見つめる。
倒れていくフランソワーズの体。

唇が形作る二つの言葉。




た す け て ア ラ ン





thanks、ア ラ ン







ア ラ ン? ぼく?それは・・・私?

僕のせいじゃない。
僕のせいじゃない。
僕のせいじゃない。

私のせいじゃない。
私のせいじゃない。

私の・・・・・?!


####

8月17日 午前。

「じゃあ・・・兄さん」
「ファンション、また飛行機のキャンセルで戻ってくるかもしれないから、ねえ?ま、気楽に行っておいで・・・十分に体に気を付けて、来年の春には一度戻ってくるんだから・・・・ちょっとは女の子らしくなっておいで?」

パリの小さな街のアパルトマンのエントランスで。大きなスーツケースを傍らに置き、フランソワーズはたった1人の肉親である、ジャンと強く抱き合った。

「兄さん・・・我が侭を許してくれてありがとう」
「ただの我が侭なら、行かせてないよ。可愛いファンション・・・君の夢だ、しっかりな」
「ええ、ええ。兄さんも・・・私がいない間は色々とダニエラにお願いしてね?」
「・・・今、その名前を出すか?」

ジャンは妹を腕から離し、ちょっと怒ったように今から旅立つ妹を睨んだ。

「お邪魔虫は当分アメリカよ?」
「・・・・・ファンションを邪魔だなんて思う女性(ひと)を選ぶつもりはないよ、僕は!」
「シスコン、卒業するんじゃないの?」
「・・・・ああ!もうっ!!さっさと行けよっ」
「ま!冷たい兄さんね?」

フランソワーズは ぷうう っと頬を膨らませて抗議した。
そんな妹を眩しげに観るジャンは、母親譲りのきらきらと輝く亜麻色の髪を、愛しげに撫でた。

「・・・・・ファンション、頑張るんだよ。いいかい?僕のハッピーポイントは、全部君のものだ。だから・・・使い切っていいんだ。辛いこと、哀しいこと、少しでも嫌なことがあったら、思い出して使うんだよ。可愛い、可愛い、僕のファンション・・・」

ジャンはもう一度、愛しい妹を強く、きつく抱きしめた。
フランソワーズは腕の温もりを、ジャンの香りを、忘れないように必死でこころに刻み込む。

「兄さん、・・・・行ってきます」


一台の車が、2人が立つアパルトマンから少し離れて停まった。

フランソワーズは愛しい兄の頬に、行ってきますのキスをひとつ。
ジャンも、愛しい妹に別れと、再会を願って頬にキスをひとつ。

スーツケースを手に、フランソワーズは大好きなアパルトマンから、ジャンから離れていく。
フランソワーズは震える頬を必死で我慢して微笑み続けている。
絶対に泣かない。と、彼女は自分に誓ったのだろう。

ジャンは、小さくなっていく妹の後ろ姿を見送る。
あと数メートルフランソワーズが進めば、彼女は角を曲がり、完全にその姿が見えなくなる。

路肩に寄せて停められている車をフランソワーズが横切った。
車はフランソワーズの歩みに合わせるかのように徐行し始める。


軍人としてのカンが、ジャンに危険を知らせる。
ここ数週間の間にパリで”誘拐”が多発していると、新聞の記事が脳裏をよぎる。

黒い車。
黒い男。


「ファンション・・!」

ジャンはフランソワーズを呼び止めようと、声を出す。

フランソワーズの真横についている車が、ブレーキを踏まれてタイヤと地面の摩擦で啼く。
後部座席のドアがフランソワーズの道を阻むように開いた。
夏の太陽が燦々と照りつける中にくっきりと浮かぶ、長身の黒スーツを男。
フランソワーズの視界が黒い影に覆われるた瞬間、素早く車から降りフランソワーズを車へと押し込んだ。


慣れた動作。
ーーープロだ!


ジャンは走り出す。

フランソワーズは悲鳴らしい悲鳴を上げる隙がない。
彼女は目を見開き、口を動かし助けを求めているが声になっていない。

長身の男は、ジャンを見た。
いや、ジャンの遙か後方にいる人間に視線を送っている。

「thanks アラン・・・・」

長身の男はニヤリと嗤う。
ジャンの姿を長身の男の目が捉えるが・・・余裕の態度。

「ファンションっっっっ!!」

フランソワーズの口に白い布があてられた。
人形のように崩れ落ちた彼女を、長身の男は抱え込むように車に乗り込みむ。

ばたん と、ドアを閉められた。

「ファンショーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンっっっっっっっっっ!!!」

全力で走るジャン。
腕を、体を伸ばし、妹を乗せた車に指が触れた。が、車はジャンの手を振り払い走り去る。

前のめりになり倒れるジャン。
目を皿のように見開いて、妹を連れ去った車を睨む。少しでも情報を!と・・・。




別れのキスは、再会を祈ったものだった。





神よ・・・・・僕たちは両親を失い、たった2人だけの家族なんです。
どうか、どうか、可愛い僕のファンションを・・・・フランソワーズを・・・・・助けてくださいっっっ!!!!

僕に幸せなんかいりませんっっ!
妹を、ファンションを・・・・助けてください・・・・・。

神よ・・・この世にあなたがいるのなら・・・どうか、僕の可愛いファンション・・・を・・・・。



薄れていく意識の中で。
フランソワーズの瞳は2人の男を見つけた。
1人は、必死で走ってくる、ジャンの姿。
1人は、アパルトマンの影に隠れるように立つ、アランの姿。

フランソワーズは助けを求めた。

フランソワーズは叫んでいたつもりだったが、それは空気を動することはなかった。
彼女の瞳は必死で2人の男に注がれる。

「Thanks、アラン」

耳に届いた名前。

アラン?

助けを求めている、2人のうちの1人の名前。

アラン?



あなたなの?




ア ラ ン・・・・・あ な た が ?




目覚めたとき。

見慣れない部屋に寝かされていた。
堅い寝台の上。
白い壁。
白いライト。

不気味な緑色の服。
紅いマフラー。


人ではない躯となって。
人ではない”眼”と”耳”の力を手に入れて。

「初めまして003。君のコードナンバーは003。サイボーグ003だ」

003?

サ イ ボ ー グ ?


「気分はどうかな、003・・・いや、実物は写真よりもいいじゃないか・・・目覚めてくれて嬉しいよ」



次ぎに
目覚めたとき。

再び・・・
見慣れない部屋に寝かされていた。
堅い寝台の上。
002,004の姿を確認して安心した。
白い壁。
白いライト。
年老いた・・・憎むべき科学者。

紅い防護服。
黄色いマフラー。

「久し振りじゃの・・・003。気分はどうじゃ?」

003・・・・。そう、私のコードナンバーは003。

サ イ ボ ー グ 0 0 3

「・・・・時はきた。君たちの不備あった点はすでに改良された」

001を抱いた科学者は、003の顔をのぞき込み・・・微笑んだ。

「フランソワーズ・・・・が、君の本当の名前じゃな?」

「?!」

「005,006,007までの候補者がすでに改造を始めておる・・・・未来を、失われた未来を自分の手で取り戻す気はないか?・・・・フランソワーズ」


失われた未来。


目覚めたとき。
おとぎ話のように、バレエで何度も踊ったプリンセスのように王子様のキスはなかった。
けれど、私には未来があった。


009・・・・ジョー。

私たちの未来はあなたにあった。
40数年の時を経て、私はあなたに出会った。


####

イワンのテレパスが、アランの言葉では説明仕切れない、不明瞭な部分を補う。
時に、言葉となって。
時に、アランが思い出す映像となって。

ジョーは、踊るフランソワーズをイワンのテレパスを通して、アランの記憶の中から見た。
人であった、生身であった頃のフランソワーズをジョーは知らない。

ジョーが知っているフランソワーズは、すでにサイボーグとして戦闘の実践も経験もある女性だった。
映像で見る彼女は、ジョーがよく知るフランソワーズであり、フランソワーズではなかった。

自分が生まれるずっと前に生きた人。

サイボーグになっていなければ、出会えなかった人。
運命と言う言葉はあまり好きじゃない。
運命なら、すべてを諦めて流れるままに生きていただろう。

それでも、これが運命だと言うのなら・・・。
アランがいなければ、彼女と出会えなかった。


なぜ、フランソワーズが?

どうして、フランソワーズなんだ?
どうして、フランソワーズが選ばれた?
どうして、フランソワーズがサイボーグに?

戦いの中で、フランソワーズを見る度に思っていた。

思っていただけだ。
俺は最低な男(ヤツ)だ。
キミの過去を知って・・・それでもキミがサイボーグにされたことを喜ぶ、俺がいる。

キミと出会うために・・・。



「ジョー・・・」

小さなフランソワーズの囁きに、ジョーは我に返る。

アランの告白はフランソワーズにとって、「あの日」から時間は確実に流れていた。という確認のような・・・
ただ、それだけだった。
真実を知れば、もっと今以上に苦しむと思っていたフランソワーズの胸は、不思議なほどに軽かった。フランソワーズ自信の胸の心境に、その軽さ戸惑いを隠せない。
その様子がジョーやイワンには、アランから話しを訊いたばかりのフランソワーズの狼狽にみえた。

アランの話しは、ほとんどがフランソワーズの知らない時間に起こったことだ。
サイボーグにされたきっかけがアランだったとしても、フランソワーズは彼を責めることができない。責めるどころか、彼が不憫にさえ思えてくる。
アランがB.Gと接触していなかったとしても、彼らは年頃の女性を捜していたと言う。
フランソワーズがサイボーグに改造されることが、運命だったとすれば・・・アランは偶然そのきっかけになっただけ。

運命なら、どんな手によってでもフランソワーズはサイボーグの道へと進むしかなかった。


日本で出会ったことによって辛く苦しんでいたのは、フランソワーズではなく、アランだった。


彼はずっと「あの日」から今まで・・・どんなに自分を責め、追い詰めてきたのだろうか。
こころ安らぐ日はあったのだろうか?バレエを踊ることが、彼の唯一の救いであり、罪を償う行為だったのではないか。
自分の罪の意識に堪えられず、すり替えていく記憶と想い出。
フランソワーズに好意を寄せ、想いを重ねることで、アランは長い時間を堪えてこられたのではないだろうか。
「あの日」から抜け出せないまま、過去に囚われているのは、アラン。
罪の意識が愛情に変わり、愛の感情はすべて彼の罪となって足枷となる。

アランの人生は常フランソワーズの代わりに歩んだ人生。と、彼は感じていた。
彼自身の人生は、彼自身で築いたものであるにも関わらず。


” 私 の フ ラ ン ソ ワ ー ズ ” の言葉は ” 私 の 罪 ” 
 
アランの精神は限界にきている。

それは、彼の目が焦点を失いつつも妖しくフランソワーズを捉える、瞳の光。
小刻みに揺れる体。
がくがく と打ち合う膝頭。
唇から離さない親指の爪を話しの合間に噛み続ける。
何度かジョーが話しの合間に口を挟むが、全く彼の言葉を耳に入っていない。
フランソワーズも、その様子に彼女から声をかけたが、アランは話し続けた。

アランは、自分と話している。
アランは、自分の中のフランソワーズに話している。

彼は、現在(ここ)にいながら、こころは過去に還っている。

アランは・・・ずっと過去に生きていた。


<もう。いいわ・・・ジョー、イワン>
<フランソワーズ?>
<イワン。あなたも、もう。気づいているのでしょう?・・・お願い、イワン・・・・アランを助けてあげて?>

フランソワーズを求め、手に入れることが、アラン自身が罪から解放される鍵。
アランが自分を取り戻すこと。それはフランソワーズと「あの日」に返ること。けれども、それは不可能だ。

時間は戻らないことを、彼は気づいていない。

<・・・・ドウシタイ?>
<彼は、自分の力で・・・人生を成功したことに・・・私のことは、昔、バレエでパートナーだった・・・>
<彼ノ中デ、ふらんそーずガ 幸セデナイト ダメ ダヨ。彼ノふらんそわーずヘノ想イハ強イ。消スノハ難シイ。キッカケガアレバ思イ出スカモシレナイ、危険モアル。ソレニ 代ワルヨウニ、ふらんそわーずガ幸セナ記憶ヲ・・・チャント、彼ノ前カラ姿ヲ消シタ設定デネ>
<・・・それなら>
<ジョー?>
<・・・・・・グレートに感謝しないとね・・・こうしようか?>
<・・・ジョー、君モ読ンデタノ?>
<5巻まで無理矢理、ね・・・・ギルモア博士が先に読みたいって言うから、それ以上は読んでない>
<ジョー、イワン?>
<ああ、フランソワーズも帰ってから読むといいよ・・・君がヒロインになるんだから>
<ふらんそわーず、イツデモ合図ガアレバ・・・実行スル>

####

力を使い果たして眠ってしまったイワンを、ダイニング奥にあるコモンスペースに作った”こども部屋”のベッドに寝かせた。005と006の部屋、そしてギルモアの寝室を結ぶようにある広いスペースの一角がイワンのための”こども部屋”。リビングのベビーベッドに寝かせる方が好ましく思えたが、009からの報告を訊いている仲間と博士が集まっている。
夜の時間になったイワンには関係ないかもしれないが、話し声などでその眠りを不快なものにはさせたくない。と、フランソワーズの配慮だった。
子ども部屋スペースのベビーベッドは揺りかごのように左右に揺らすことができるタイプのために、フランソワーズはギルモア邸にあるベビーベッドの中でも、一番このベッドを気に入っていた。
背もたれがない飾りイスに座り、壁に背を預け、ゆっくりとベビーベッドを揺らす。

窓から入る天満月(あまみつつき)の光柔らかに、柄杓星が輝く春の夜空。

イワンを連れて”こども部屋”に行ったきり、戻ってこないフランソワーズの様子を見にきたジョーは、彼女のシルエットが、すでに夢の住人であることに気がついた。

「・・・フランソワーズ・・・風邪を・・・・」

ベビーベッドの揺れに合わせてフランソワーズは、船を漕ぐ。

「っだよ?寝ちまったっmふぃ’あぴrgh」
「・・・・五月蠅い」

<息が!ジェロニモ!息が!>

ジェットの声の大きさに、ジェロニモの大きな手で鼻も口も覆った。

「せっかく、姫に第一シリーズを1巻から貸そうと思っていたんだが・・・」
「明日でもいいアルネ!」
「新刊、ジェットから借りるの?」
「ピュンマ!そんな邪道なことを我が輩っっっっっあわわわわ・・・スマン」

グレートは自分の口を押さえながら小さくなっていく。

ぞろぞろとリビングから姿を現したメンバー達は、揺れるベビーベッドを眠りながらも、その手で揺らし続けるフランソワーズを見ながら、囁き合った。

「このままじゃあ、いかんの、誰か部屋に連れて行ってやりなさい」

ギルモアはフランソワーズの寝顔を一瞥して、微笑みながら地下へと降りて行った。
アルベルトはギルモアの言葉に頷き、ぽんっとジョーの肩を叩く。

「ま、そういうことだ」
「・・・そういうこと?」
「オレでもいいんだぞ?」

ニンマリとアルベルトは片方の口角を上げて嗤う。

「あ、ボクでもいいよ?」

ピュンマがひょっこりと、ジョーをのぞき込むように会話に参加する。

「我が輩も、かまわんぞい?」
「ワタシでもいいネ!」
「あ;wr gじょr」
「ジェットでもいいらしい。オレも運べる」

「・・・・」

ジョーは、無言でフランソワーズに近づき、ベビーベッドの縁に置かれた彼女の手をそおっと離させる。

「・・・ん・・・・・・」

小さな声が、形良い唇から漏れて、ジョーは一瞬手を止めたが、安らかな寝息が聞こえ始めたので、そのままフランソワーズの背中と膝下に腕を通して羽のようにふうわりと抱き上げた。
ことん と、彼の胸に頭を預けるフランソワーズ。彼女の手は無意識にジョーの胸のシャツを握っていることを、ピュンマは見逃さない。
にやにや と、声も出さずに笑い合う仲間達に見送られながら、ダイニングを抜け、リビングを通り、階段を上る。


彼らの姿が見えなくなったところで、やっとジェロニモがジェットの顔半分を覆っていた手を離した。
彼はわざとらしく深呼吸をする。

「ったくよぉぉっジェロニモ!!せっかくジョーで遊べるチャンスをっっ」
「いい加減にしろ・・・ジェット。フランソワーズが起きてしまうだろう?」
「うるさくてかなわんぞ・・ジェットののトリ声は耳にキンキンと良く響くんでなあ」

グレートが耳を塞ぐ仕草を見せる。

「トリ声だあ?!」
「イワンも寝てるアル!!静かにするネ!!」
「あんまりジョーをからかってると、大変な目にあうよ?・・・あ、フランソワーズを起こしていても一緒かな?」
「んああ?!っっんだよっそれ!!」


「”加速装置の時間の狭間で一瞬で灰にしてやる。この世に1ミクロだってその細胞を残さない・・・消してやるよ、フランソワーズを傷つけるやつは、許さない”」


ピュンマは嬉しそうに、微笑みながらしっかり、はっきりと言い切り、そのピュンマの台詞にメンバーが全員顔を見合わせた。

「加速装置ってこたああ・・・009か?」
 
ぼそりとグレートが呟いた。

「違うよ、”ジョー”だよ!」

ピュンマはグレートの009と言う言葉を訂正した。

「名台詞だな、それは」
「でしょ?アルベルト・・・灰にならなくてよかったね、この前」
「・・・・・それを言うなら、ジェットだろ?」
「でも。何か足りない。」

ジェロニモが低く言った。

「十分ネ!ジョーにしては珍しいアルよ?」
「ピュンマ。」
「何?ジェロニモ」
「ジョーはまだ、だな。」
「あ。そう思う?実はボクもそう思うんだよね・・・もうちょっとな気がしないでもないんだけど?」
「むう。蹴られたくない、余計なことはしないぞ。」

ジェロニモはそう言って、そのまま自室のドアを開けて部屋へと戻った。

「ワタシも疲れたアル・・・寝るネ」
「まだ終わったわけじゃないから・・・続きは明日だな?」

アルベルトがまとめるように言った。

「オヤスミね」

張大人の部屋はここ、1階のジェロニモの隣にある。
彼もまた自室へ引き上げた。

「お、ピュンマ、オレの部屋に来いよ!」
「ええ?」
「昼寝、したろ?・・・徹夜だっつうただろう!」
「・・・ええマジなの?」
「おう!オレは大まじめだっっ!!」

そのまま解散となり、それぞれの部屋に戻っていく。


フランソワーズの部屋で、ジョーは彼女をベッドに降ろしたとき、彼女の手が自分の胸元のシャツを掴んで離さないことに気がついた。
ジョーは くすり と笑って、そおっとその手を外す。
掛け布団を彼女の肩までかける。
彼女のトレードマークのカチューシャをはずして簡易テーブルの上に置いた。

「おやすみ・・・・お疲れ様、フランソワーズ」

ーーーまだ、終わってはいないけれど・・・・。今はゆっくりと休んで。

「・・・・・ジョォ・・・・・・」
「・・・・え?」

不意に自分の名前が呼ばれて、思わず聞き返してしまう、ジョー。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「?」

フランソワーズの呟きは聴き取れず、さほど気にすることなくジョーはフランソワーズの頭を2,3度撫でてから部屋を出た。



「・・・・・・・・・・き・・・・・・・・・・・・・あり・・・が・・・と・・・・・・・・う」







フランソワーズの部屋のドアが音もなく静かに閉まった。




=====23 へ 続 く

・ちょっと呟く・
凹・・・。

こんなあっさり?
あれ?

まだ、もうちょっとモルちゃんがんばります・・・いや、がんばってくれないと
広げた風呂敷穴だらけ・・・(TロT) エーン

・・・こんなの納得できな~い!!て思われたら・・・どうしよう・・・

って、まだ続きますからね!

あ、徹夜ネタ募集(笑)
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