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Day by Day・25
(25)




フランソワーズはミツエに、客のように気を遣わないで欲しい。と、言った上で、1日目はミツエについてまわり、コズミ邸の家事内容を把握した。そんなフランソワーズの様子が微笑ましく、4人の娘を育てたミツエは、その日のうちに6人目の娘ができたとばかりに、フランソワーズと親しくなった。

「どっちが日本人だか、わからなくなっちゃうわ!」

ミツエが冗談でもらした言葉に、出かける前のコズミは面白そうに笑っていた。

ミツエの手伝いに、躯を動かしているフランソワーズ以外ははっきりいって暇であった。
アルベルトとピュンマは早々にコズミ博士から許可をもらった書庫に入り浸る。ジョーも何冊かの本を持ち出して、陽当たりの良い縁側に座布団を敷きくつろいでいる。ジョーの背後でジェットが長い手足を畳の上に大の字に広げて呟いた。


「暇だ・・・・」
「・・・・・・」
「なんでこんなに暇なんだ?」
「・・・・・・」
「おいっ!」
「・・・・・・」
「なんでこんなに暇なんだよっ!」
「五月蠅いな・・・・・・」
「ジジイかお前らはっっ!!昼日中から黙々と本なんてよっ!!不健全だ!」
「・・・・・・」
「不健全よね!」
「お!!さくら!」
「お昼御飯、もうすぐですって。さっき朝御飯を食べたばかりなのにっね?」


さくらはスタスタと歩いて、ジェットの長い足を跨ぎ、ジョーの隣にぺたり。と座った。


「何読んでるの?」
「・・・・・・」


ジョーは無言で表紙のタイトルを見せた。


「・・・・何それ」
「本」
「面白い?」
「それなりに」


”日本の近現代文学史・上巻”と書かれた重たそうな本を、胡座をかいた膝の上に乗せて読む。


「何が書いてあるの?」
「・・・・この時期に活動した作家の代表作品をまとめてる」
「今、どの人の、何を読んでるの?」
「樋口一葉。”たけくらべ”・・・いまから、”にごりえ”」
「どんな話し?」
「・・・・・読む?」
「ええ?!イヤよっ日本語だもんっっ!!」
「・・・・え?」
「私、日本語は話せるけど、書くのも読むのも苦手なの!!まあ、書くのはパソコンを使うからまだいいんだけど・・・」
「なんだぁ、さくら、もしかすっとオレよりダメなのか?」
「げええ!それだけは避けたいわ!!ジェットより私の方が読み書きできないんじゃ、もう恥ずかしくて大学なんて行けないわよっ!」
「じゃ、もう行けないなぁ、せっかく入学したのに、残念だったな?」


ジョーは呆れながらジェットの方へ振り返る。
ジェットが日本語の読み書きに困らない、こうやって日本語で会話が出来ているのは全部補助脳にある通訳機と言語変換器のおかげであるからだ。さくらにはそんなものが脳内に組み込まれているはずがなく、ジェットが大きな顔で言えることではない。


「んじゃ、ま。オレは本の寄生虫となってる2人をメシに呼んでくっからよっ」


ジェットは反動を付けて、一気に立ち上がり伸びをする。


「ねえ、お昼を食べたらどこかへ出かけましょうよ!!もうすぐ桜が満開になるのよっ」


コズミ邸のダイニングルームに大人が6人揃うと、さすがに狭いので、広いテーブルがある客間に用意されることとなり、滞在中の食事はここですますことになった。
ミツエが作った和食がテーブルを彩る。フランソワーズが盆に乗せた急須と人数分の湯飲みを運び、席に着いたところで昼食が始まった。


「お若いのに、みなさん本が好きなのねぇ?・・・なんだかセンセが3人も4人も増えたみたいだわ」
「色々面白いのが揃ってるんですよ。ここは楽しいです」
「コズミ博士は乱読家で、助かりますよ・・・ギルモア博士は興味があるもの”のみ”ですから・・・」


ピュンマとアルベルトは読書好き。と、言う点でとても似たもの同士だった。ジョーも読書家と言えばそうであるが、その傾向はコズミ博士以上にばらつきがある。その時々の気分で本を選び、読むときは集中して何冊も読みこなすが、読まなくなると、まったく手に取らず文字さえも追わなくなってしまう。


「でもよ、昼食ったらからでかけっぞ?」
「ええ?訊いてないよ?」
「さっき決めたんだぜ?知ってたら、そりゃ超能力でも身に付いたってことだぜっ」


ジェットがぐるぐるとおみそ汁をかき回す。


「オレは遠慮しておくぞ、今ちょうど面白くなったところなんだ・・・止める気はない」
「・・・たまには日に浴びねぇと、腐るぞ?」
「たまには鳥かごで大人しく歌ってるのはどうだ?」
「っっだとおお?!」
「でっっっ!!何処に行くんだい?ジェットっ!!」


売り言葉に買い言葉。
ギルモア邸のようにくつろいでくれ。と、コズミ博士に言われてはいるが、ここで2人の言い争いを始めるわけにもいかず、ピュンマが慌てて仲裁に入った。


「お花見なんてステキよねえ?もっと早く言ってくだされば、お弁当にして差し上げたのに・・・」
「今日は様子を見に行って、お花見は日を改めて決めましょうよっっ!!ねえ、ギルモア邸にいるみなさんもお誘いして、み~んなで行くのどお?」
「おおおっ!いいじゃねえかっ!!場所取りやら任せようぜっ帳大人にも頼んで豪華な中華弁当ってのもいいよなっ」

「「・・・花より団子」」


ピュンマとアルベルトの呟きが見事に重なった。


「ねえ、ジョー!!桜よっ、外で桜を見ながら食べる御飯は美味しいんだものっ!桜の下でゆったり読書も素敵じゃない?!」
「・・・・・そうだね」
「フランちゃん、お花見は知ってる?お花見はしたことあるの?」
「ニュースで少し聞いたくらいで、映像とか。実際はないです」
「ボクもだよ、ジョー以外は全員、未経験だよね?お花見っ」
「じゃっっ絶対に行かなきゃ!観なきゃ!!春の日本に居ながら、お花見未経験なんてっ御寿司を食べてないのと一緒よ!!」
「おおおっし!!決まりだな!!今日は下見っ!んでっ桜の咲き加減と、場所取りの段取り!」
「お弁当!!」
「「イエ~~~~~~イ!!」」


さくらとジェットは立ち上げり、2人でハイ・ファイブで、ぱちいいいんっと乾いた音を響かせた。


「・・・・・もう1人ジェットがいる?」
「・・・ジェットのノリについていける人間とは、ある意味貴重だぞ?」


慣れている、もしくは興味がない。と、ばかりに黙々と箸を進めるジョーは、どう反応、対応していいのか判らずに、昼食の手を動かすことで、その場を凌いでいるフランソワーズをちらりと観た。
彼女はミツエの隣、ジョーの真正面に座っている。
さくらとジェットは座って昼食をかき込みはじめ、すぐにでも出発したい様子だったが、それをアルベルトの一言が落ち着かせた。と、いうよりも悩ませた。


「花見はいいが、どこに行くのかちゃんと調べろよ?駐車場があることも重要だな。メジャーな場所は人だらけで、弁当どころじゃないぞ?」
「ああ?・・・なんだよっ面倒くせえなあっ」
「どこも込んでるわよね?・・・きっと。だって、徹夜して並ぶんでしょ?」
「徹夜だって?!」


ピュンマが思わず叫んでしまった。


「場所取りのためらしいわっ。そんなに桜を観ながら御飯が食べたいのね?」
「やはり日本人は祭り好きと言うか、イベント好きと言うか・・・だな。弁当云々は諦めて、散歩がてらに桜を愛でるが、一番いいようだが?」


アルベルトの案に、ジェット、さくら、そしてピュンマが情けない顔をする。
そこに優しくしっかりとした声が届いた。


「大丈夫ですよ、私がとってもよい穴場を知ってますから!今日はそこへ桜の咲き具合を見に行ってらっしゃったらいかが?」


ミツエの言葉に、さくらの瞳がきらり。と輝く。
ジェットは、パチンっっと指を鳴らして、ミツエにウィンクを一つ投げた。


「さすがっオレのミツエだぜ!!」


ミツエにたいするジェットの態度は注意してもかわらず、アルベルトは我関せずを決め込んで白米を味わい、ピュンマはコリコリと沢庵を咀嚼する。ジョーは食事を終て黙って食器を重ね、フランソワーズは湯飲みに緑茶を注いでジョーの前に置いた。


向かい側から伸ばされたフランソワーズの白い手を、ジョーの視線が追う。
ただお茶を出してくれた。それだけのことなのに正確に打ち続けていた心臓のリズムを乱した。


「・・・・ありがと」
「ジョーは行くの?」
「・・・・読みかけの本がある、キミは?」


フランソワーズの問いかけに、ジョーの心臓の強弱が激しくなっていく。


「片づけをお手伝いするから・・・」
「せっかくだから、行ってきたら?」
「お花見まで楽しみはとっておくわ・・・それにね」
「・・・・?」


微笑んだ彼女の笑顔が淡く光るように見えて、一つ大きく心臓が跳ねた。


「コズミ博士が前に話していたことを覚えていて下さって、本を下さったの」
「本を、キミに?」
「ええ、とても素敵な本なの、だから午後はゆっくりと本を読むわ」
「・・・・そう」


ジョーはコズミ邸に来てから2日間の間、まともにフランソワーズと会話をしていないことに、もどかしさを覚えながらも、別の意味で、妙な緊張から解放されていることに安心していた。しかし、ギルモア邸ではないにしろ、同じ邸にいながら意識しなければ会話をするチャンスがない、彼女との接点がないことに、改めて自分とフランソワーズの関係が”サイボーグとしての仲間”であることのみ。と、感じてしまう。 


「ジョーはもちろん行くわよね!」


ジョーの隣に座っていたさくらが、彼の腕を強引にひっぱり ぎゅうっ と抱きしめる。手に持った湯飲みから熱い緑茶が零れそうになり、ジョーは慌ててそれをテーブルにおき、その腕をやんわりと解こうとしたが、さくらはより強く彼の腕にしがみつく。


「あったりめぇだろっ!誰が車運転すんだよっ!」
「・・・ジェットも、さくらも運転できるだろ?ピュンマだって・・・」
「ああ、良かった。誰もボクを誘ってくれないのかと思ったよ?」


ピュンマはフランソワーズから緑茶を受け取りながら、わざと情けない声を出した。



「じゃ、私とジェットとピュンマ、それにジョーの4人ね!!」

さくらは甘えるようにジョーの腕に頬を寄せる。
ミツエはフランソワーズも行くことを促したが、彼女は残ることを強調する。その姿にアルベルトは小さく溜息を吐きつつ、緑茶を啜りながら見る。そしてその視線をジョーへと移動させた。
ジョーはなんとか腕をさくらから解放しようとしているが、さくらはニコニコと満面の笑みで頑として腕を離さないつもりらしい。


「・・・・もし、オレも行くなら、フランソワーズ・・・お前も来るか?」
「え?」


突然のアルベルトの申し出にフランソワーズは目を丸くして驚いた。


「ま!疲れるどころかっ私はまた1人娘ができて嬉しいのですよ?・・・でもねぇ。午後から特に手伝ったいただくこともないし・・・ねえ、本は逃げやしないのだから、行ってらっしゃいな」
「フランソワーズ、どうせなら一緒に行こうよ?」


ピュンマも加わって、フランソワーズを誘う。


「行きましょうよ、せっかくだし・・・ねえ?ジョー?」


さすがにこれ以上は断り辛くなったフランソワーズに、子猫のように愛らしい瞳をフランソワーズに向けながら、さくらが甘えるような声で彼女を誘った言葉。であるが、それはジョーへと流れていった。
ジョーはもたれかかってきたさくらの体の重さを押し返すようにして、反動を利用しながらさくらから逃れた腕を、重ねられた食器を持つことで腕を捕られないように防ぎつつ立ち上がった。


「みんなで行ったら、楽しいと思う・・・ミツエさんも・・・どうですか?」





####


コズミ邸に誰も人がいなくなるのは問題ではないか?と、一瞬、躊躇しながら言ったが、夕方までには戻ってくると言うことですんなりと受け入れられた。
大人7人が乗れる車がないので、ミツエの車とさくらの車の2台に分かれて目的地へと向かうことになり、コズミ邸から南西に向かって1時間ほど車を走らせた。


ローカル線しか止まらないと言う、無人駅。
駅に付属されていたパーキングスペースに2台を並べるように止めて、ミツエの後ろについていく6人の不思議な団体。
自然が多い静かな住宅地の中を歩いていく間に、道々ですれ違う町の住人たちから、無意識なのだろうが向けられる奇異と好奇の視線に、この町では日本人じゃない僕たちは珍しいのかなあ?などと、のんびりと思うピュンマ。


ミツエがこの町に10年ほど住んでいたという話しと、他愛無い会話が途切れ途切れに交わされつつ、駅から歩くこと10分ほど。
近くに学校があるのか、時間通りにセットされたチャイムの音と一緒に、風に乗って聞こえてくる声は、明るく華やいでいた。


「この道を行った先が広い植物公園になっていてねえ、大きな河津桜がたくさんあるんです。この町の唯一の見所だと思うわ」


坂道の続く道を、息を乱すことなく歩き続けるミツエにジョーは関心しつつ、歩道を振り返ると、少しずつ見下ろせるようになってきた町と、徐々に広がり近づいてくる、うっすらと筋雲がかかる空。
ジョーは思わず立ち止まり、町と空の境目に見入った。




人が住む町。


朝がきて、人は起き出し、1日が始まる。
夜が来て、人は家に帰り、眠りにつく。



毎日を繰り返して、時間の流れに日々を重ねて変化する。




重ねすぎて重みを増した日々を時間は流れてくれるのだろうか?
改造された日から、ジョーは数えることを止めてしまった。
ミッション時に進行の目安として使うただの数字となった、年、月、日、週。時。分。秒。


忘れていた、忘れようとしていた何かが ふらり とジョーのこころに現れた。



誰も俺を知らない。



独り帰り着いた、誰もいない部屋。
「ただいま」と言った言葉を受け取る者はなく空気に散っていく。


人が住む町に人は溢れているのに、誰もジョーを知る者はいない。
彼を知ろうとも、しない、町と人。





「きゃあ!」
「?!」


最後尾を規則正しく左右交互に前へと出す、自分の足下だけに集中して見ていたフランソワーズは、立ち止まっていたジョーに気づかずに頭のてっぺんをジョーの胸にぶつけた。


ぶつかった瞬間に、揺れた亜麻色の髪から風が悪戯ごころでフランソワーズの香りを ふわり とジョーの鼻腔へと届ける。
どきり。と2つ心臓が、お互いの音が重なり合って大きく跳ねたことに気づかない。


「ごめんなさいっ」
「いやっ、ごめん・・・急に立ち止まったから」
 「っ私が前を見てなかったからっ」
 「ぼうっと立ってたし」


微妙に重なり合う言葉の語尾と語尾。
アクアマリンの瞳とアンバー色の瞳がお互いの姿を映し合う。





ーーー好きって・・・・・言った?
ーーーどうして・・・・・キスしたの?





触れ合った視線と視線に熱がこもる。


「おいっっ!なにやってんだよっ置いてくぜっ!」


ジェットの声に ぱっ とお互いに離れて距離を取った。
「ごめんなさい」と囁いた声を残して、ジョーの横を通り過ぎるフランソワーズ。と、すれ違うように、ジョーに駆け寄ったさくら。


「どうしたの、ぼうっとして?」


上目遣いに見上げてくるさくらの問いの言葉を、曖昧な微笑みだけ口元に浮かべ、何も答えずにジョーは歩き出す。慌ててさくらは跳ねるようにしてジョーを追いかけ、自分よりも歩幅が広いジョーに合わせるように小走り気味に坂を上る。


「ねえっ、どうしたの?」
「・・・・別に」


さくらはジョーの瞳が見つめる方向をなぞっていく。
彼の視線の先には、先頭を歩くミツエとアルベルトに追いつく、フランソワーズの背中。


「ふうん・・・」


ジョーの視線の先にいる彼女を見るのは辛く、気持ちよい風に混じった微かな花の香りに誘われて、道に点々と散る花びらに視線を落とした。


丘を登りきった先には植物公園とは名ばかりの、光に弾かれる新緑が目に沁み入る樹々に囲まれた、ただ広いだけのグラウンドが広がる。
隅っこの方にペンキが剥げた数脚のベンチ。
無骨なセメントで作られた水場に2つ並んだ蛇口。


ミツエは左奥へと通じる、豊かに生い茂った木々に隠れた小径の先へと歩く。
小径はすでに花びらの絨毯が出来上がっており、ミツエは少しその歩み緩めた。


樹々に覆われた道の視界は狭く、唐突に抜け出た小さな空間に足を止めた。
光と空と風と桜。桜、桜、桜の樹々に囲まれた、まあるく切り取られた小さな世界は春の色。
見上げる空はぽっかりと青く抜け落ちて、鳥の鳴く声、羽ばたく羽音。
桜の花は色鮮やかに、香り豊かに瞳を桃色に染めていく。
陽は樹々の隙間からこぼれ降り、息を飲んで感動に胸を震わせる訪問者たちを歓迎した。


大きく開ききった桜は、地面を花びらの絨毯に変えている。


「あら~・・ちょうど一昨日あたりが見頃だったのねえ」


のんびりとミツエが言った。



「うわあぁ・・・・・」
「すごい・・・な」
「キッレー!!!ミツエさんっすごいっ!」
「すごいでしょう?この町の唯一自慢できるのは、ここくらいなものなのよぉ」
「ひゃ~~~~~~っっ」


ジョーは無言で、まあるい小さな広場の中央へ歩き出し、くるり と360度まわってみる。


桜。桜。桜。桜。桜。桜。桜。そして、桜。



ジョーにならって中央へとよってくる、さくら、ジェット、ピュンマにアルベルト。
フランソワーズは小径の脇に立つ桜の木から、ゆっくりとまあるい世界の端っこを沿うように視線を上に保ったまま歩き出した。
ジョーの躯が無意識に、フランソワーズの歩みに合わして目線を、躯を、回転させていく。


陽の光を透かした桜の形の影が、歩調に合わせて揺れるフランソワーズの髪を飾る。
うっとりと見上げる瞳は、もう一つの空。
風もなく舞い散る花びらを、白い小さな手を伸ばして受け止める。
柔らかく薄い桃色のそれを大切そうに、手のひらに乗せて微笑んだ。


重力を感じていないのか?と思わずにはいられないほどに、フランソワーズの足取りは軽やかに、桜の木の下を歩いていく姿は、ジョーの胸を淡く揺れて桜色に染まる。
意識すれば、するほどにジョーの耳に甦るフランソワーズの声とひとつ単語。



ーーー好き・・・・?




ジョーの視線とその思考を遮るかのように、さくらは彼の真正面に立ち、服の袖を強めに引っ張った。


「ここなら徹夜で並ぶ必要もないわよねっ!少しくらい散ってもここなら十分よっ」


さくらの声に我に返ったジョーだが、まだ彼のこころは桜に囚われたまま戻ってこない。


「・・・・そうだね」
「本当にキレイ!!ね?ジョー!私、さくらって名前でうれしいかもっ」


ジョーは微笑んでさくらの言葉に頷いた。
彼の瞳に映る自分を見つけて、高ぶる胸を落ち着かせながら言葉をつないでいく。


「だからっなるべく早く来ないとだめねっ!」
「・・・・そうだね」
「んじゃっ早速むこうに電話すっかなっ!明後日くらいでいいよなっ?」


ジェットはドシンっとジョーの肩に腕を回して体重をかけ、ジョーとさくらの会話に参加した。
ジョーはジェットの腕の衝撃でやっとこころが桜から解放された。


「・・・重いっ」


眉間に皺を寄せつつ、その腕を持ち上げて自分の肩からどける。
ピュンマはジョーを挟んでジェットとは反対の位置に立ちながら、さくらに話しかけた。


「でも、ここでお弁当とか広げて騒いでもいいのかな?・・・こんなに綺麗なところだし・・・」
「・・・そうよね、ここ、そういうの大丈夫なのかな?」
「少しくらいいいんじゃね?」
「少しって・・・少しですめばいいんだけどねぇ?」


肩をすくめて苦笑するピュンマはジョーを見た。
ジョーの視線は再びフランソワーズと、彼女が歩く先にいる人物にむけられている。


フランソワーズは、足を止めた。



「1人で何してるんだ?」
「桜を見ながら歩いてるのよ?」
「見ればわかる」
「じゃあ、訊かないで?」


桜の木にもたれかかるようにして立っているアルベルトに話しかけられ、ずっと桜を見上げていた首を戻した。首がだるく感じるが、そのだるさが心地よい。


「いいのか?」
「綺麗ね、桜」
「放っておいて平気か?」
「日本文化の素晴らしさのひとつは、四季がはっきりしているせいかしら?移り代わっていくのを肌で感じるわ」
「気にならないか?」
「本当に、素敵・・・」


フランソワーズは再び視線を上に上げて、アルベルトの横を通り過ぎる。
アルベルトは、やれやれ・・っと溜息を吐き、フランソワーズのように空を見上げた。
円を描いて切り抜かれた空の青を、取り囲むのは陽の光を透かす桜たち。


「夜桜の方が見応えありそうだ・・・・・・・簡単に惑わされるぞ?男はそういう生き物だからな」



<余計なお世話です・・・・・いつからそんなお節介になったの?>




脳波通信で少しだけ怒ったような声が届いた。

ーーー季節的なものだ。日本の春は人を狂わす力があるらしい・・・。 





ジョーは2人が何事かを話しているの知り、その会話が聞こえないと解っていながらも、耳を傾けて意識してしまう自分に、舌打ちする。


ーーー・・・何を、気にする必要が・・ある?


フランソワーズがアルベルトから離れて歩き出したのを目にして、ジョーは、ほっと意味のわからない焦りから逃れつつも切なさを感じた。





1人、歩くフランソワーズ。
そのまま1人で歩いて行くのだろうか?



どこへ?

どこへ行く?


キミは1人で行ってしまう?



バレエを見に行った日。
キミが、本当のキミであった日。
アランにキミが再会してしまった日。


走り抜ける乗用車が吐き出す排気ガスの臭い。
一瞬だけ浴びる、舞台上のスポットライトのような強過ぎる車のライト。
カーブでタイヤがアスファルトと擦れる音が、妙に生々しい。


ジョーの腕に、フランソワーズの躯の重さが甦る。
泣いて、震えて・・・すがる彼女を抱きしめた。



思い出す。



ずっと、永遠に、抱きしめていたかった。





願ってはいけない。
叶えられない望みだ・・・けれど・・・




もしも。
キミが・・・俺を想ってくれているのなら・・・?




そんな奇跡が・・・・?ある、はずがない。







======26 へ 続 く

・ちょっと呟く・

ジョー、初恋? ねえ、初恋? 初恋なの???
アルさまフィーバー!お節介な30男!

ちょっと少女漫画らしくなってきた・・・?
いや、まだでしょうねえ・・・。
乙女心は難しいねえ?>ジョー
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