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Day by Day・26
(26)

ジョーの視線の先には、常にフランソワーズがいる。
でも、ジョーは”好きな人はいない。”と、はっきり言った。



じゃあ、なぜいつもフランソワーズを見ているの?

その瞳で追いかけているの?

眩しそうに、彼女を見るの?

切なそうに、瞳を細めるの?



彼女と話すときのジョーは・・・優しい。
私と話すときと同じ。




彼女と話すときのジョーの瞳は・・・切なく、強く、温かく、嬉しそうに・・・淡く翳る。
私と話すときと違う。


私の時と違う!!!



好きな人はいない?

それじゃあ!どうしてそんな瞳で彼女を見るの?

彼女を追いかけるの?

彼女と話すの?




好きな人はいないって言ったじゃないっ!



・・・・私はジョーが好き。
だから、好きになって。
好きな人がいない。って、言ったあなただから、私を好きになって。





####


花見(予定)の下見から7人がコズミ邸を出発し、その帰りの途中に、ミツエがコズミ博士お気に入りの和菓子屋へ寄り道をして3,4時間ほどで邸に戻ってきた。夕食の準備を終えてから自宅に戻るとミツエは言ったが、すでに彼女が帰宅すべき時間は過ぎており、フランソワーズは自分がするからと、今日の礼を言ってミツエを帰そうとした。
ミツエはいつもの事だから気にする必要はない。と、言ったが、ミツエの顔から少しばかり疲労の色が表れていたために、フランソワーズは半ば強引に、休んで下さい。と言いはった。自分を気遣うフランソワーズに苦笑しつつ、フランソワーズの優しい心遣いに甘えることにする。


「じゃあね、フランちゃん。あなたも疲れたでしょうに・・・」
「私は・・・大丈夫です」
「本当に?」
「はい!だから、また明日」
「ええ、また明日ね」
「おやすみなさい、ミツエさん。今日はありがとうございました」
「こちらこそ!楽しかったわ!!」



ミツエは車に乗り込み、運転席からフランソワーズに手を振る。
フランソワーズも手を振って、ミツエの車が去るのを見送った。


コズミ邸の門前で、フランソワーズは夕明かり残る空を見上げる。瞳を閉じた目蓋には、昼間に見た桜が鮮明に焼き付いていた。ふうっと、肩から力を抜いて息を吐き出し、ぐうんっと両腕を高く上げて伸びをする。


「ジェットが騒ぎ出す前に、お夕食を用意しないと・・」


コズミ邸の門を内側から閉めたとき、煙草の香りがフランソワーズの胸を締めつけた。
00メンバーで煙草を吸うのは、ジェット、アルベルト、グレート、パイプ派のギルモアと張大人。
それぞれに好きな銘柄があるらしく、微妙に味と香りが違うと言う。喫煙者ではないフランソワーズは、それがどう違うのかは判らないが、香りの違いはいつの間にかかぎ分けられるようになってしまっていた。


”耳”はスイッチを入れていなくても、人以上の聴覚を持つ。
厭でも聞こえてきた声は、ジョーとさくらの声。
庭先に出て煙草を吸うジョーについて、さくらも庭に出ているのだろう。


気にならない。と、言えば嘘になる。
フランソワーズはそのまま足早に玄関に入り、キッチンへと向かう。


<メシ、いつできんだよ?>


台所に立ったとき、ジェットの脳波通信が届いた。





「腹減った!」
「・・・手伝ってこい」


フランソワーズ以外の4人はなんとなく客間に集まっていた。
庭に通じる引き戸が開けられた縁側に、腰をかけているさくらと、庭に立ち、煙草を吸うジョーにアルベルト。


「アルベルト、ジェットじゃ役にたたないよ?」


ピュンマが畳の上で足を伸ばしてくつろぐその横で、ジェットは胡座をかいてテーブルの上に突っ伏している。
2本目の煙草に火を灯すアルベルト。
さくらがジョーを見つめていると、煙草を1本だけ吸い終ったところでジョーは庭から客間へと戻り始めた。


「何処行くの?」


何も言わずに自分の横を通り過ぎた、ジョーの背中に声をかけた。


「・・・・手伝い」
「ジェットより、ジョーの方が役に立つね!」
「じゃあ、私も行く」
「さくらっ!お前料理できねぇんだろっ?!邪魔すんなよっ」


ジェットは頬をテーブルにぺたりとくっつけたまま目線をさくらに向けた。


「ジェットに言われたくないわよっ!出来ないんじゃなくてっ好きじゃないからっやらないの!」
「へえ!そうなんだ?・・・なんで?」
「むいてないのっ」
「んなもん、理由になるかよっ!出来ないから、むいてねぇんだろ?」


さくらがジェットとピュンマと話している間に、ジョーはキッチンへと向う。
ジョーを慌てて追いかけようと、立ち上がったさくらに話しかけ続ける2人に、彼が客間から出て行った先の襖を見つめて、いつもよりも数段低い声で言った。



「・・・・どういうつもり?」


恋する女性のカンはとても鋭い。
この2日間の間に、気がつけばそれとなくジョーと2人きりになるチャンスを、ジェットもしくはピュンマに邪魔されている気がしていた。


「・・・っんだよ?」
「ジェット・・邪魔するの?・・・・・・それで、ピュンマも知ってるんでしょ?」
「うん」
「あ!?ピュンマ!!」


素直にさくらの問いかけに答えたピュンマにジェットは慌てた。


「誰にも言わないでって書いたのにっっっ!!!!」


さくらはジェットを睨みながら声を荒げる。


「たまたま、メール読んでるときにっこいつが居たんだよ!オレのせいじゃねぇえっ」
「もういいわよっ!!どっちでもっ邪魔しないでっ」
「告白して、返事をもらわないで・・・どうしたいのさ?」


ピュンマが疑問に思っていたことを声に出た質問に、さくらは迷わず即答した。


「私を好きになってもらうのよっ」
「え?」
「好きになってもらうだあ?」


ジェットは仁王立ちのさくらを見上げた。


「ジョーはっ好きな人はいないって言ったんだもん!!だからっ私は好きだから、ジョーに、私を好きになって!ってお願いしたのっ!!返事をもらわないんじゃなくって、待ってるのよ!ちゃんと私のことを知って、見て、感じて、考えて欲しいから!!私が彼の好きな人になるのっ!っなんか文句あるっ!!」


さくらの気迫と勢いに、空きっ腹のジェットは言い返す気力はなく、ふるふるっと首を左右に振り、ピュンマは ごくん。と生唾を飲んで、息を大きく吸って吐いた。


「・・・でもさ・・・好きにならなかったら?ジョーの気持ちが他の人に向いていたら?」


ピュンマの冷静な言葉に、ぐっと喉の奥が詰まり息苦しさを感じながらさくらは、頭を項垂れ、さっきの勢いが嘘のように力無く呟いた。


「ピュンマ・・・そんなのっそんなの・・・好きな人はいないって言ったんだもんっなのに、そんなことを考えてたら何も出来ないしっまだ判らないじゃないっ?・・・それとも・・・何か知ってるの?」
「・・・よおく、ジョーを観てたら気がつくと思ったけど・・・ボクはさくらを心配してるんだ・・・」


ピュンマは立ち上がってさくらに近づき、俯いたさくらの顔を心配そうにのぞき込んだ。
さくらは ぱっ と顔を上げてピュンマを睨み、その唇から言葉を投げようとするよりも早く、庭にいたアルベルトの声がピュンマとさくらの間に割って入った。


「ピュンマ、他人に言われて”はい、そうですか”で、納得できるなら、この世に恋愛小説は流行らん・・・好きなようにさせておけ。ダメで傷つこうが、落ち込もうが、泣こうが、喚こうが、いい大人だ。自分で自分のケアくらいできるだろう?・・・そうやって女は、な?・・・女としての経験値を減らすようなことをするな・・・蹴られるどころか、踏みつぶされるぞ?そっちの方が治りが遅いだろ?」


さくらは驚いたようにアルベルトを見る。
煙草の香りを客間に運びながら、アルベルトはニヤリと片頬を上げてさくらに嗤いかけた。



「ジョーにどんな魅力があるのか知らんが、好きにしたらいいさ・・・」
「ジョーはとっても魅力的で、すてきだわっ!ありがと!! 見ててっ!彼は絶対に私を好きになってくれるからっ!」


さくらは満面の笑みで自信満々に言い放ち、台所へ向かったジョーの後を追った。
ピュンマは呆れたようにアルベルトを見る。


「アルベルトぉぉぉ?なんで煽るのっ?!」
「それも人生だ。・・・これくらいのことでいちいち余計な手を出すな・・・こじれるぞ。たまにはいいじゃないか・・・春は色恋沙汰の季節だろ、日本は」


ピュンマは足を投げ出して座り、アルベルトもピュンマの近くに胡座をかいて座った。


「そんなの訊いたことないよっ」
「盛りがついて困るだろ?春は」
「あのさ、猫や犬じゃないんだから・・・」
「似たようなもんだ、にゃあ、にゃあ、わん、わん、楽しそうだ」
「・・・・楽しいのはアルベルトでしょ?無責任だよ」
「いつまでも甘やかしていたら、心配し過ぎで離れるに離れられなくなるぞ?」
「・・・・帰るんだ?」
「来年あたり」
「そっか」
「ピュンマは?」
「帰る前に・・・やりたいことがあってさ。ボクは自分の国のために、もっと世界を知らないといけないんだ。日本でも勉強できるけど、できたら・・・」
「・・・・勉強か、お前さんらしいな」
「コズミ博士が、相談に乗ってくれているんだ」
「そうだったのか」
「・・・うん、ギルモア博士も色々とアドヴァイスをくれてるし。今はまだ準備前の準備かな?ジェットは?」


ピュンマは途中から大人しくなっていたジェットに話しかけたが、返ってきた返事はピュンマの質問とはまったく関係がないものだった。



「・・・・も、なんでもいいからよおお、メシぃぃぃ・・・」



「こいつは決まってるだろ?・・・・電線の上だ」


アルベルトはニヤリと嗤った。





####


台所へと続く廊下の途中で、ジョーは足を止めて深く息を吐いた。
コズミ邸に来てからの、さくらの態度にどう対応していいのか判らなかったのだ。とくに、以前にはなかった彼女の”スキンシップ”がジョーを困らせていた。さくらが自分の隣に立つと、手を繋ごうとする。それを拒むと腕を絡めて体重をかけて頬を寄せ、しっかりと彼の腕を抱きしめるようにしがみついてくる。


何をどうすればいいのか、わからない。

それがジョーの本心である。



今までなら、そのまま相手が望む通りのことをこなした。

望まれるままに。

求められるままに。

独り、誰もいない部屋に帰るのが厭でたまらず、ただ街に出て、星の代わりに瞬くネオンに目をむけることもなく歩くと声がかかる。
そうやって知り合った人と夜を過ごし続けた。
名前も知らない。顔も覚えてない。
その日限りの関係に、その日限りの寂しさをごまかす。



独りで夜を過ごすくらいなら。
独りで朝を迎えるくらいなら。



誰でもいい。
そばにいてくれたら、それでいい。



以前の島村ジョーだったなら、さくらの気持ちを受けていただろう。
何も疑問を持たずに。
ただ、それを望まれたから。



必要としてくれるなら、誰でもいい。



でも、今は?



この世で唯一、自分のものだった体を奪われた。
もう何もかも失ってしまった・・・はず、だった。




サイボーグにされて、仲間ができた。


サイボーグにされて、独りではなくなった。


サイボーグにされて、大切なものができた。




「サイボーグだから・・・出会えた・・・・」




想ってはいけない。

彼女をより不幸にする。
自分が求めていたものは、彼女が望まない世界にあった。


だからと言って、さくらを逃げ道にするつもりも、一時的な淋しさの埋め合わせにするつもりもない。




もう、昔の俺じゃない。




好き・・・て、言った・・よ、ね?
それは、誰に?



キミが誰を想っていても・・・俺は・・・・。






「フランソワーズ、手伝うよ」

コズミ邸の台所の入り口に立ち、一度、短く深呼吸を繰り返してからフランソワーズに話しかけた。
できたての鮭炒飯の香りが、ジェットほどではないにしろ空腹であったことを知らせる。台所に置かれたテーブルに人数分の夕食が並び、それらをちょうどお盆に乗せていたフランソワーズは、ジョーの言葉に微笑んだ。


「遅くなって、ごめんなさい」
「いや、作らせてしまって・・・ごめん」
「お料理は別に苦じゃないわ、”好き”だもの」
「っ!」


ジョーは台所に入る途中でテーブルのイスに がんっ と、勢いよく足をぶつけ、イスは蹴り上げられた形で夕食が並べられたテーブルにぶつかり大きく揺れた。


「っジョー!!」
「ごめんっ」


フランソワーズはお盆に乗せていた、帳大人から教わったばかりの中華スープをさっと持ち上げた。


「危ないわっ」
「ごめんっ・・・」


テーブルの上にある、鮭炒飯も青梗菜と豚肉のオイスターソース炒めも、フランソワーズが中華スープをお盆で持ち上げたために、無事であった。


「・・・スープから運ぶことにして、正解だったわね?」
「・・・・・ごめん」


申し訳なさそうに、小さくなって謝るジョーを見ながら くすり と笑ったフランソワーズは、手に持っていたお盆をジョーへと渡す。


「これを持って行ってくれるかしら・・・気を付けてね? ジェットはまだ生きてる?」
「気を付けるよ・・・ジェットはそろそろ危ない、かな?」
「じゃあ、急がないとっ。でも、こぼさないでね?」
「・・・・・はい」


ジョーがスープを乗せたお盆を手に、台所を出たところでさくらと入れ違う。


「私も手伝うわっ」
「・・・・・うん」


にっこりと笑ってさくらは台所へと入っていった。
ジョーはその背を見ながら短く溜息を吐いて、ジェットを餓死させないために客間へと向かった。



「何かお手伝いすることありますか?」
「・・さくらさん」


台所に入ってきたさくらに少しばかり驚きつつも、フランソワーズは笑顔で答える。


「お夕食はできたから、あとは運ぶだけなの。このお盆を使って運んでいただけるかしら?」
「は~いっ!」


さくらはフランソワーズからお盆を受け取り、テーブルに並ぶものを次々に乗せていく。フランソワーズはポットに火をかけてお湯を沸かす。
さくらは手を止めて、フランソワーズの後ろ姿を見つめた。
自分よりもすらりと背が高い。線が細く華奢な躯。ゆったりと流された艶やかな亜麻色の髪は、彼女のフランソワーズの微かな動きにそって背中で繊細に揺れる。


「・・・・フランソワーズさん」
「なあに?」
「私、ジョーに好きっていいました」
「・・・・」


フランソワーズはさくらの方へは振り返らずに、使った中華鍋をコンロからシンクに移して洗い始めた。


「ジョーは好きな人はいない。て言ったから、私が彼の好きな人になるって言いました」
「・・・・」
「だから、私のことを好きになってくれるように、がんばるの」
「・・・・」
「応援、してくれますか?」
「・・・・」
「ジョーが私を好きになってくれるように、フランソワーズさん、助けてくれますか?」


フランソワーズはさくらの方へ振り返り、微笑んだ。


「・・・・私の応援がなくても、大丈夫よ」
「何が、大丈夫なんですか?」
「ちゃんと彼は考えてくれる・・・わ。ジョーは優しいもの」
「考える?・・・・優しいから、考えてくれる?それって、私に望みがないように聞こえますけどっ?」


さくらは手を止めて、フランソワーズを睨む。
フランソワーズは手に持っていたスポンジを握りしめた。


「何が、言いたいの?さくらん」

「フランソワーズさんはジョーのこと、好き?」
「好きよ、彼は大切な・・・・」


フランソワーズは、言葉を言い淀んだ。
彼女の口から、”家族””仲間”と言う単語が出てくるはずであったが、それを言葉にすることができない。


「大切な、何?家族?仕事仲間?」
「・・・・それじゃ、ダメかしら?」


フランソワーズの言葉に、さくらの表情は憎々しげに歪んだ。


「・・・そうやって余裕ぶってればいいわよっ!」
「余裕?」
「ジョーは絶対にっ私を好きになってくれるわっ!ちゃんと私を見てくれればっ、一緒にいる時間さえあればっ ジョーはあなたなんか見なくなるっ!!!ジョーがあなたなんか好きなはずないわっ!そうやってみんなにチヤホヤされてっ思い上がっていればいいわよっ!、いい気になってる間にっ ジョーは私を好きになってるわっ」


「え?」



さくらはお盆を手に台所を去っていく。
蛇口から勢いよく流れる水が中華鍋に溜り、溢れた水が、じゃばじゃばとシンクのディスポーサーへと流れていく。握りしめたスポンジは、油と混じり不快な感触。



ーーー何を言ってるの?




”ジョーはあなたなんかを見なくなるっ!!!”

”みんなにチヤホヤされてっ”

”思い上がっていればいいわよっ!”



”ジョーがあなたなんか好きなはずないわっ”



さくらの言葉を思い返す。
その言葉はまるで、ジョーが自分に好意をもっているかのような口ぶりであった。


「・・・・何を、勘違いしているの・・・ジョーが、私を想うはずないじゃない・・」




ーーーそういう風に見えるのは、仲間として、仲間の中で唯一、私が女だから・・・でしょ?




フランソワーズはざっと中華鍋を洗い、ポケットに入っていた携帯が震えたのを取って短い会話を交わす。その後にテーブルに残されていたものを客間へと運ぶ。
誰もいなくなった台所に、コンロで火にかけられていたポットが鳴いた。




####


翌日はあいにくの雨模様のために、朝から期限の悪いさくらは、いつも以上に甘えるようにしてジョーのそばを離れない。ジョーはとくに何も言わなかったが、座っているときなどに、べったりと体を猫のようにすり寄せてくるのには、辟易していた。
予定では今日、グレートがアルベルトと交代するためにコズミ邸へ訪れる予定だったが、急なギルモアの所用を頼まれたために、交代する日が伸びることになり、アルベルトはピュンマとともに、書庫へと籠ったまま出てこない。ジェットは退屈そうに、ごろごろと客間の上を芋虫のように右から左へ転がり、時計を睨み。再び左から右へと転がり、時計を睨む。


本当なら、明日の花見のための準備に追われているはずであったが、市が管理する植物公園での個人的イベントは、事前に市への届けが必要であることがミツエの調べでわかった。家族単位の花見であったとしても1週間前には申請が必要と言う。植物・自然環境保護のためと言うのが市からの理由だった。

「以前は誰でも自由に花見を楽しめたのに」と、申し訳なさそうに報告するミツエ。黙ってればバレないっ!と主張したジェットだが、”目立つ”ことは避けたいメンバーの声により、”花見”は中止になった。


「昔は自由に、好きなときに桜を愛でて、楽しんだのにねぇ。最近はなんでもかんでも、あれも、だめ。これも、だめ。・・・本当に変よねえ?」


ごろごろと転がるジェットの姿に、通りかかったミツエが話しかけた。


「仕方ねぇ・・・・それが時代ってもんだぜ、昔が良いときもあれば、今が良いときもあるってな・・・」
「ジェット君、そんなに退屈だったんならフランちゃんと一緒にお使いに出てもらえばよかったわねえ?」
「フランソワーズがお使いっ? 1人でっ?」


慌ててジェットは長い体を勢いよく起こす。


「ええ、行きたいところがあるって・・・・だからついでにお使いも頼んだんですよ?」
「それ、近所かっ?」
「いいえ?少し離れた○○の方へ・・・・あの、何か不都合でも?」
「い、いや・・・あいつ、まだ1人で電車もバスも乗ったことねぇんだ・・・だからっつい・・・ジョーは知ってんだろ?」
「島村君?・・・さあ、どうでしょう?フランちゃん、朝食後すぐに出かけたから・・・・」
「アルベルトは?ピュンマは?」
「さあ?・・・・私からは何も言ってませんから、フランちゃんが言ったかどうかは・・・」


ミツエは困惑した表情でジェットの言葉に答える。
ジェットは、「なんでもねぇんだっ!」と、ミツエの顔色を読み、よけいな考えをミツエに与えてしまったことに後悔しながらも、その足で書庫へと向かう。が、短気なジェットはミツエとの会話がすんだ直後に脳波通信を飛ばした。



<フランソワーズが出かけたのっ誰か聞いてっか?!>



ジェットの脳波通信がピュンマ、アルベルトに届くと同時に、書庫の扉が開いた。


「聞いてっか?!」


壁いっぱいに埋め尽くされた本棚には、隙間なく多くの書物が著者別、ジャンル別に保管されてい
る。コズミの几帳面な正確が良くでている、20畳ほどの広さの部屋に置かれたソファに座り、本を読んでいた2人は何事かと、左側の廊下に続く扉に視線を向ける。


「・・・・何?フランソワーズがでかけたの?」
「ジョーと一緒じゃないのか?」


ジェットの落ち着かない様子に反して、2人はのんびりと答えた。


「ジョーが一緒のはずねぇだろっ!朝からずうっっとっさくらがまとわりついてんだしよっ!!さっきさくらに強請られて2階に行ったはずだぜっ!」
「・・・じゃ、フランソワーズは本当に1人?」


ピュンマは心配そうにアルベルトを見て、その手に持っていた本をソファに置いて立ち上がる。


「フランソワーズがどこへ行ったか聞いたのか?ジェット」
「なんか○○ってとこに用があるってミツエに言ったらしい、だから、ミツエがお使いを頼んだって」
「・・・・聞いてないな」
「ボク、ジョーに聞いてくるっ」


<・・・フランソワーズが出かけた?>


ピュンマが書庫を出ようとしたとき、3人にジョーからの脳波通信が届き、彼は足を止めてジェット、アルベルトを見た。ジェットはすぐに返事を返す。


<ミツエに、街へ行きたいって言ったらしいぜっ?・・・ミツエがお使いを頼んだんだけどよっ、そっちの方が”ついで”だっ>
<アルベルト、ピュンマも聴いていないんだね?>
<ああ、朝食が済んでからずっと書庫だ>
<ボクもだよ、朝食のときに彼女に会ったけど何も聴いてないよ?>
<ギルモア邸に連絡を頼む。彼女の携帯に電話を、居場所も確認してくれ・・・フランソワーズらしくない>
<おめえがっさくらといちゃいちゃしてっからだぞっっ!>
<・・・関係ない>


「ジェットっ!今はそんなことより確認が先だよっ!・・・大げさかもしれないけど、さあ」


<ジョー、こっちへ来い。ギルモア邸への連絡はオレが入れる>
<じゃ、ボクはフランソワーズの携帯に>
<ったく!!雨の日くらいおとなしくしてろっつうのっ!!>


「ジェットには言われたくないんじゃない? フランソワーズも・・・」
「っつうか、あいつっさくらを振り切ってこれるのかよ・・・ぜって~無理だっ!」
「連れてこい、ジェット。仕事だと言え」
「女1人に振り回されやがってっ!!情けねっ」
「1人じゃないよ・・・?今は2人だけど、さ。前は・・・色々ねえ?」
「んなああああんでっあいつばっかモテんだよっ!!」
「五月蠅いっ!さっさと行けっ」


アルベルトは携帯からギルモア邸のコール音を聴きながら、ジェットにジョーを連れてくることを促した。その声と重なるように、ジェロニモが電話に出る。


『・・・はい。』
「アルベルトだ」
『どうした?』
「フランソワーズはそっちに戻ってないな?」
『・・・戻ってきていない』
「連絡は?」
『ない』


ジェロニモの答えに、アルベルトはピュンマを見る。
ピュンマも持っていた携帯からフランソワーズの携帯にかけるがコール音を聴く前に、それは留守番サービスセンターへと繋がる。


「・・・電源を切ってるみたいだよ?・・・もしもし、ピュンマです。これを聴いたら連絡して。・・・心配してます」


ピュンマは、短く伝言を残して携帯を切った。アルベルトは、電話口のジェロニモに今の状況を簡単に説明した後に、ジェロニモから意外な返事が返ってきた。


『昨日、グレートがフランソワーズの携帯にメールした。アランの日本滞在スケジュールが変わったことをだ。彼はフランスの芸術祭のゲストに選ばれたらしい。帰国することがわかった。その後に日本へ来るかは未定だ。ツアーは日本以外もまわるから、そのまま次の国へ行くのかもしれん。・・・関係ある・・・だろうか?』
「大ありだ」
『そうか。探すのか?』
「・・・・アランに会いに行ったことは確実だな」
『アルベルト。フランソワーズは大丈夫だ。信じろ・・・フランソワーズは自分を知っている、彼女が行くと決めたなら、それは絶対に必要だったことだ。何も言わずに言ったことも理由がある、責めたりするな。そしてジョーに言え、009ではなく、ジョーとして迎えてやれ』
「・・・すべて知っていたかのような言い方だな?」
『こころの声を聞け。すべてに理由があり、それは大きな一つの道となって続いている。オレにはただ”道”を歩く2人が見えているだけだ。』
「・・・・大丈夫なんだな?」
『信じろ。フランソワーズを』
「信じてるさ、付き合いは長い」
『・・・報告をまつ。』
「そっちでも、フランソワーズの居場所は掴むために動いてほしいな。・・・それは信じる、信じないよりも、”もしも”のためだ」
『わかった。』


携帯を切り、短く息を吸って深く吐く。
ピュンマはアルベルトがジェロニモと話している間にフランソワーズの携帯に電話をかけ直していた。
その場にジェットの姿はなく、彼がジョーを素直に呼びにいったことがわかる。





####


むりやりに2階へと連れてこられたジョーは、何をするでもなく、さくらがずっと自分の話しをし続ける
のを聴いていた。それは、彼女の小さい頃の話しだったり、夏にヴァカンスへ行った島や国だったり・・・彼女は脈絡なく思いつくままに話し続ける。ジョーはさくらと距離をとり、さくらの勉強机のイスに腰を下ろして相づちを打つ。
さくらの明るく、ころころとよく変わる表情に、歌うように話すストーリー。ジョーはさくらをとても魅力ある素敵な女の子だと思う。彼女の大げさな身振り手振りに、さらさらと反応する肩上で揺れるまっすぐな黒髪。笑うと子猫のように涙袋をぷっくりと膨らませて三日月のような細いラインを描く。低めの慎重は、ジョーの肩にさえ届かない。細すぎる体は、彼女が秋から大学に通うと言う年令であることを、ひと目では見分けられないだろう。

昼近くになり、彼女の機嫌もよくなりつつあるのか、今朝のようにべったりとジョーに体を寄せてくるようなことはなくなった。ジョーはさくらと距離が取れたことに安心し、彼女の話しにやっと耳を集中させ始めたとき、ジェットの脳波通信が飛び込んできた。



ーーーフランソワーズがでかけた?



ジョーは今朝からフランソワーズの姿をみかけていなかったことを思い出す。
気分によって朝食を食べたり、食べなかったりするジョーは、今朝は朝食を取らなかったために、台所に居るであろうフランソワーズには会わなかったのだ。起き抜けに廊下であったミツエに、「おはようございます」と言ったことは覚えている。



ーーー1人で?・・・まさか・・・



昨夜遅くに、ギルモア邸からの電話を受け取ったのはジョーだった。
それはグレートからであり、ギルモアの所用をこなすために、アルベルトとの交代が無理であることを伝えるものだった。ジョーは了解し、電話を切ろうとしたとき、007として短く、アランのスケジュール変更を009に報告した。



『003には、メールしておいたぞ。』
「メール?」
『ああ、頼まれてたんでなぁ・・・スケジュールに、イベント、どんな小さなことでも、変化があればメールが欲しいってな風に・・・聴いてないのか?ジョー』




ーーー聴いていない。




こころが重く沈む。


003として、フランソワーズはときどき無茶な行動を起こし、その度に009として彼女を叱ったことがあった。戦闘中においての彼女は勇敢な1人の戦士であるとわかっていても、他のメンバーに任せるようなことができないでいた009に、逆に003は009に詰め寄って言う。




”私もサイボーグよっ!仲間よっ!!ちゃんと1人の00メンバーとして扱って!女だからって甘やかさないでっ!!!”




花が咲くように明るく微笑みながら御菓子の甘い香りをさせて、ぴゅんぴょんと飛び跳ねるようにリビングへやってきては、どれだけ今日の御菓子のできあがりが素晴らしいかを報告する。

仲間たちの質の悪いジョークに、顔を紅く染めながらぷうっと頬を膨らませて怒る。

夜の時間のイワンの頬に、毎日彼へのおやみすのキスをかかさない。

調子がはずれた歌を口ずさみながら、何が忙しいのか邸中をぱたぱたと走りまわる。

大量のリネン類を抱えて、視界を遮られているときに”眼”が便利!と、戯けてみせる

時には母親のように口うるさく、日常のマナーを注意し、姉のように優しく諭す。お願い事があるときは、妹のように甘えた仕草を魅せる。

やっと手に入れた平和な日常に慣れずに哀しみ、平和な日常から戦いの日々に戻ることを恐れ、1人部屋で震える小さな躯を必死で自分の腕に抱き静かに泣く。




翌朝にはいつもと変わらない笑顔。




恐くてたまらい夜も。
淋しくてたまらない孤独も。
逃げ出したい戦いも。
辛い過去も現実も。
人であって人でない躯の苦しみも。



彼女は笑顔で朝を迎える。




そばにいたい。
キミのそばにいたい。




1人で恐くてたまらい夜も、
1人で淋しくてたまらない孤独も、
1人で逃げ出したい戦いも、
1人で辛い過去も現実も、
1人で人であって人でない躯の苦しみも・・・・キミとなら・・。



2人なら・・・・?




ジョーは脳波通信で書庫に居るであろう3人と短い会話を交わし、すぐにでも下へ降りて状況を把握したかったが、簡単にはいかない。「アルベルトから呼びだされた」と、話し続けるさくらに言いたいが、彼女に”脳波通信”で呼ばれた、とは言えない。



「も~~っ!!ジョーってばっ!!私の話し聴いてなかったでしょ!」
「え・・あ・・・ごめん」



目の前に飛び込んできた黒色の瞳。
いつの間にか、さくらはジョーの顔前に自分の顔を寄せてのぞき込んでいた。


「何考えてたの?」
「・・・・別に」
「別にじゃないじゃないっ!上の空だったでしょっ」
「・・・仕事のこと」
「お仕事?」
「昨日、ちょっとギルモア邸から電話があって、気になってる・・・行くよ、もう」


ジョーはイスから立ち上がり、さくらをよけるようにして部屋を出ようとしたので、さくらはジョーの腕をひいた。


「どこ行くの?」
「下」
「まだ、お話終わってないもん!」
「ちょっと、アルベルトに用事を思い出した」
「お仕事の?」
「そう」
「後でいいじゃないっ!お昼御飯の時間でもっ!!」


ジョーの腕に自分の腕をさくらは絡めると、体重をかけてジョーに寄り添う。


「気になるから」


ジョーはその腕をいつもよりも強く引きはがした。
さくらはジョーの手の力に戸惑う。



「・・・私、ジョーが好きよ?」
「・・・」



部屋の扉に手をかけてドアを開いたジョーの背中に、さくらは呟いた。


「ジョー、好きな人いないって言った。から・・・私を好きになって?」
「・・・」
「今すぐなんて言わないわ。だってまだ出会ってすぐだし、一緒に居る時間だって全然足りないものっ!ちゃんと私のことを知って欲しいし、ね?」
「さくら・・・」


ジョーは振り返り、さくらの顔をまっすぐに見つめる。


「さくらの気持ちは嬉しい・・・けど」
「まって!!ジョーまって!!」

さくらはジョーの言葉を途中で遮り、彼の胸に飛び込んだ。


「聴きたくないわっ!!まだっまだよっ!返事はいらないって言ったでしょっ私とジョーはまだ何も始まってないものっ!今はただ、私を知って欲しいのっ。ね?人の気持ちは変わるわ!私はジョーが好きなのっ今はそれでいいわっ!だから・・・だから・・・」
「・・・人の気持ちは変わる、か・・・」
「ジョー・・・お願い、言わないで」


さくらはジョーの胸に顔を埋め、腕をまわして躯にしがみつく。
ジョーは優しくさくらの肩に手を置いて、彼女を自分の胸から離した。


ジョーを見上げた黒い瞳が涙で濁る。


「・・・好きってどういう気持ち?」
「え?」


突然の言葉に、さくらの瞳が大きく見開いた。


「正直に言うと・・・わからないんだ。人を好きになったこと自体、ないのかな・・・どうだろう?」
「人を・・・好きになったこと、ないの?」
「あるのかも、ないのかも・・・わからない。今まで、”好き”って言われたことはあるけどね・・・」
「・・・ジョーを好きにならない方がおかしいわよっ!」


ジョーは微かに微笑んだ。



「さくらは、素敵だね」

「・・・」
「明るくて、自分の気持ちに正直で・・・元気で。ちゃんと”好き”って言う気持ちを知ってる」
「・・・」
「とても、素敵だと思う」
「・・・イヤっ聴きたくないっ!」


さくらは首を激しく振って耳を塞いだ。
ジョーは微笑んだまま、言葉を続ける。




「好きってどういう気持ちか、わからないけど・・・大切な・・・人はいるんだ」


ジェットは階段を上りきったところで足を止めて、さくらの部屋のドアを見つめていた。
ジョーが開けたかけたドアの隙間から2人の会話が聞こえてくる。


「さくら、人の気持ちは変わる?」
「・・・聞こえないっ」



ーーー彼女が、他の人を想っていてたとしても・・・彼女の気持ちはかわる?



「さくら・・・俺は」
「聞こえないっ聞こえないっっ!!聴かないわっ!!」




「ジョーっ!!アルベルトが呼んでっぞ!」



ジェットは階段を数段下がってから大声でジョーを呼んだ。





####

さくらはベッドに俯せに寝転んだまま、ぴくりとも動かない。


ジョーをアルベルトとピュンマのいる書庫へと向かわせてからジェットは、さくらの部屋に入った。さくらはジェットの姿を見るなり、ベッドへと倒れ込んだのだ。泣いはいなかったが、泣かないように耐えていることはわかる。ジェットは静かに、さくらの細いうなじを見つめていた。


ジェットは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
彼の喉を通る空気の振動が、さくらの耳に届く。


「・・・・で、どうすんだよ?」


ジェットは落ち着いた、幾分いつもよりも大人びた口調でさくらに話しかけた。
その声は優しく、温かい。


「ジョーの気持ちは、気がついてたんだろ?」


さくらはジェットの声に何も反応を示さない。
ジェットは話し続ける。


「好きなヤツだから、なぁ。イヤでも気がつくよな?・・・アイツが誰を見てるのか・・・さくら、お前にはもったいねえぞ?あんな優柔不断なっ意気地のねぇヤツなんて・・・もったいねぇよ」
「・・・」
「好きになっちまったのは仕方ねぇよな、好きになる、ならないは・・・・自分でもどうにもできねぇしよ?・・・変だよなあ、人間って。こころだけは、どんなに科学が進んでも謎なんだぜ?」
「・・・」
「人の気持ちは変わるんだろ?・・・ジョーなんかの気持ちを変えるなんて、無駄なエネルギー使うより、もっと良い男探した方がいいんじゃね? 大学始まりゃ、出会いも多いだろ?」


「・・・・ジョーがいい」


さくらは枕に顔を押し付けた状態の、くぐもった小さな声で呟いた。


「ジョーが好きなの」
「アイツよりオレの方がよっぽど、いい男じゃねぇかよ!・・・目悪ぃだろ?」
「・・・・・両目ともに、1.5よ?」
「・・・そっか?ぜってー、測り直した方がいいぞ、それ」


さくらは顔を横にむけて、ジェットを見る。


「初めてあったとき、とても懐かしい”香り”がしたの」
「懐かしい?」
「日本に住んでいたときの、香り」
「・・・・?」
「私の本当のお母さんと、一緒に過ごしたときの・・香り」
「本当の?」
「産みの親はお父さんの愛人だったの」
「・・・」
「今のお母さんは、こどもができない人でね。私を引き取ったの」
「・・・お前も色々あんだな」
「今のお母さん、大好きよ。とっても愛してくれてるし、大事にしてくれてるの・・・でもね、やっぱり本当のお母さんに会いたい」
「・・・会えないのか?」
「会えないわ、私が引き取られた後に、どこへ行ったかわからなくなっちゃったんだって」
「・・・それで、探すのか?」
「探偵を使ったりして?・・・そんなことをしたら、今のお母さんが悲しむわ・・・子離れできない人だもの」
「日本に来たのは、会うためじゃないのかよ?」
「・・・・どこかですれ違っても、お互いわからないかも。でもね、それでもいいから、私は幸せですって見せたかったの」
「・・・そっか」
「ジョーはすごく・・・懐かしい香りがしたの。私が持ってる同じものを持ってる・・」
「なんだそりゃ?」
「・・・それは秘密!」


さくらが笑う。
ジェットはつられて、笑った。


「オレは持ってねぇのかよ?」
「さあ?どうかなあ?・・・・でもジョーの方が強いの、それ」
「それを持ってるヤツがいいのか?」
「初めて会ったわ、そんな人」





初めて会ったの。
寂しい時間を知ってる人。


ずっと待ってた。
帰ってくるのを待ってた。
いつか迎えに来てくれることを信じて、待ってたわ。



迎えになんて来ないことを、知っていても信じて・・・。




ジョーは知ってる。
独りを知ってる。



いつもアパートで待ってた。

お母さんが帰ってくるのを待ってた。

台所の窓から見えた夕日が、燃えるように赤くて怖かった。




早く帰って来てっっお母さん!



ずっと、待ってた。
何もない部屋で。
独りで待ってた。




迎えに来たのは、初めて見る”お父さん”だった。




ジョーは同じ。

彼は何も言わないけれど、私にはわかる。



ジョーは私と同じ香りがする。


だから、懐かしかった。
だから、愛しかった。



彼の瞳の陰は、私が持っているものと同じ色。


だから、気になった。



彼の言葉に、彼の仕草に、彼の・・・孤独に。
私は惹かれた。


私と同じ色を持つ人に出会った・・・。




「・・・ジェット?」

「なんだ?」
「・・・・好きなの、ジョーが好き」
「すげえな、さくら。お前はいい女だぜ?・・・・素直でまっすぐで、自分の気持ちをストレートに出せる。すげえっ!! お前はすげえっ!・・・愛されて、育ったんだな?お前」
「・・・愛されて育った?」
「おお!いっぱい、いっぱい、愛されて、大切に、大切にな?見ててわかるぜ?お前はすっげえ幸せもんだってな」
「・・・ありがと」


ジェットは長い腕を伸ばして、さくらのさらさらとした黒髪をくしゃくしゃと撫でた。
さくらはジェットの大きな手に頭を左右へされるがままに揺れる。


「ジョーはバカなんだぜ?」
「・・・そうなの?」
「とびきりのなっ!」
「・・・ジェットより?」
「オレなんかよりも、おおおおおおおおおおおおバカだ」
「・・・」
「だからっあんなヤツのことで、いちいち傷つくなっ!
「・・・」
「好きなら、好きでっさくらは自分の気持ちに正直でいろよ」
「・・・」
「アイツが受け止めてくれなくても、別にいいじゃねえか!お前が満足できたらよっ」

ジェットは立ち上がり、長い体をさらに長く伸ばして、天井に手が付き添うなほどに思い切り伸びをした。



「いい女は、ちゃんと自分を知ってるもんだぜ? 恋愛で自分を見失うようなバカな女じゃねえだろ?さくらは」

「ジョーが好き。だから、ジョーに私を見て欲しいの」



「simple is best!・・・・オレの胸はお前のために予約済みにしておいてやるぜっ」







====27 へ 続 く

・ちょっと呟く・

さくらちゃんは、タフです。
ジェットはいい男です。でも、君の胸は鳩胸ですか?


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