RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
Day by Day・28
(28)


水たまりをはじいたスニーカーが、まっすぐに目的地へと急ぐ。
灰色の雲の隙間から暖かく覗く、カーテンのような陽の光が揺らいだ。


通り過ぎた小さな女の子が、きれいッ!と空を指差して叫ぶ。
隣を歩いていた母親らしき人が、屈んで小さな女の子と同じ目線から空を見上げた。



「”天使の梯子”って言うのよ・・・・天使さんが会いにきてくれるわ」


青年は、その声に足を止めて空を仰いだ。



陽の光の奥に見えた色に、青年の胸の中を淡い風が通り抜ける。
頬に触れた雨上がりの温かな日差し。

彼は再び歩き出した。







####


アランは別れを惜しみつつ、その顔を嬉しさにくしゃくしゃにして、個人事務所のビジネスカードに自宅の電話番号を、エリオットから借りたペンで書き足してマリー/フランソワーズと保津川へ渡し、いつでも遊びにきてください!と、別れを告げた。エリオットは今回のハプニングで、アランの希望を快く受け止めてくれたマリー/フランソワーズが気になるらしく、しきりに彼女の連絡先を教えてほしい!と言ったが、彼女はただ微笑むだけで、それを本気には受け止めずに上手くかわした。


ハグを求められた保津川は、どうしていいのかわからずに棒のように立ち尽くす。その様子が可愛いと、アランは彼女の頬にキスをした。マリー/フランソワーズもエリオットに、そして・・・アランと出会えたことを感謝し、アランは次の再会を祈りつつ、2人は別れの包容とキスを交わした。


アランの腕の中で彼の香りに包まれる。
懐かしい、香り。
懐かしい、アランの香り。



懐かしい、故郷フランスの香り。




懐かしい・・・・パリの香り。







アランとエリオットを次の仕事先へと見送った後、保津川は、今回の”通訳”に渡す予定だった謝礼をマリー/フランソワーズに受け取って欲しい。と、何度もマリー/フランソワーズに言うが、彼女は頑にそれを受け取らなかった。謝礼を受け取らない理由として、お茶をごちそうしてもらったこと。そして、通訳の”プロ”ではない、ただフランス語圏の両親の元で育ったために話せたフランス語で、新しいお友達とお茶を楽しんだ。と、言い張った。


「お友達が困っているときに、助けるのは当然ですもの」

彼女の優しい空色の瞳に、花が咲きこぼれるような笑顔にむかって強く言うことができなかった保津川は、アランと同様に自分のビジネスカードに携帯番号とメールアドレスを書いて、マリー/フランソワーズに渡した。


「関西に来る機会があるんやったら連絡すんねんで?それ意外でも何でもええよ。今日の御飯、何を食べたらええんやろ?とかでええんやし。・・・・・こういう職業やから、それなりに業界に接してて、”情報”も色々と持ってるねんけど・・・まあ、そんなんがマリーさんの何に役に立つんかしれへんけど、・・・・今日のことは忘れへんしっ!なんでもええから、困ったときは連絡してな!絶対にお礼は返すしなっ。お友達やねんろ?うちらは!」

インタビューを通して聞き慣れた保津川の関西弁に、彼女に、さよならを言う淋しさを感じつつ、新幹線の時間が迫る保津川と、ホテルの喫茶室で別れた。


1人になったフランソワーズに、ウェイターが注文を訊ねて来た。
彼女は、紅茶ではなくカフェオレを頼む。

ふかふかのチェアの深い背もたれに躯を預けて、ホテルの天井を見上げた。
キラキラと光るシャンデリアが生み出す、眩しいキラキラの悪戯っ子たちがホテル中を駆け回る。
テーブルの上でキラキラと遊ぶ光たちが、フランソワーズの瞳を楽しませる。
水が入っていたグラスの氷が からん っと 形を崩した。

通りかかったウェイトレスが持っていた重たそうなポットで、半分までなくなっていたグラスの水を注ぎ足した。
フランソワーズは黙ってそれを見守る。


氷が踊る。


グラスについていた水滴が すいいいっ と眩しいほどに白いテーブルクロスに吸い込まれた。濡れたテーブルクロスについた滲み・・・時間が経てば消えていく。



4人が飲んでいたままテーブルに置かれた3つの珈琲カップとティーカップ。
過ぎ去った時間がそこにあったことをフランソワーズに伝える。


フランソワーズの席にカフェオレを置いたウェイターが、さっ と、それらを片付けた。
淹れ立てのカフェオレの香りだけが、そこにある。


偶然が偶然に重なった出会いと別れ。
再会と・・・・。







フランソワーズは膝の上に置いていたカバンの中から、時間を確認するために携帯を出した。


「・・・やだ・・・・電源入れてなかったの!?」

真っ黒な液晶画面に驚いて、慌てて携帯電話の電源をいれた。
画面表示されたのは、メモリーいっぱいになった未読メールとヴォイス・メッセージのアイコンが点滅していた。フランソワーズは、未読メールを確認する。


「!」

一番始めに飛び込んできたメッセージはジェットから。

”どこだ?”

続いて同じくジェットの”一言”メールが続く

”1人か?”
”無事か?”
”電話しろ”
”生きてるか?”
”怒ってるのか?”
”オレが一昨日食ったのばれた?”
”返信しろ”
”返信するのが礼儀だろ!”
”お使いで迷子か?”
”切符買えたか?”
”メシ食ったか?”
”ナンパされてもついてくなよ?”
”メシ奢るって言われてもついていくなよ?”
”絶対に知らない男についていくなよ?”
”混んでる電車は避けろ”

・・・・などが続いていく合間に、仲間達からのメールがはいる。

”心配してます。連絡下さいーP”
”報告とまではいかなくても、一言言えなかったのか?連絡をまつ。心配している。4”
”気を付けるアルよ! 大人”
”連絡する、みんな心配している。Jr.”
”無事か?連絡してくれ!9に殺されちまう!! 7”
”フランソワーズ、いま1人で街だと聞いた。1人で居たいときもあるじゃろうが連絡しておくれ、心配でたまらん。G”


”心配している” ”連絡しろ”と言う内容のメッセージが言葉を換えて何度も送られていた。



いつの間にかフランソワーズの頬が上がる。
こころが温かくなっていく。
心配されていることが嬉しくて、嬉しくて、彼女は1人微笑む。

ヴォイス・メッセージも同じ内容のメッセージがたくさん届いているのだろうと、嬉しさを噛みしめた。心配させてしまったことを申し訳ないとは思いつつも、自分がこんなにも仲間達に思われている、仲間だからこそ、家族だからこそ・・・心配されている。その思いで胸がいっぱいになり、そうっと携帯電話を両手に包んで胸に押し当てたとき、フランソワーズの胸元で両手に包んだそれが小刻みに振動し始めた。


「?」

フランソワーズは、非通知の表示を示すその相手の電話をとる。
仲間の誰かだろうか?


「・・・はい」
『・・・・』
「?」
『・・・・心配した』
「あ・・・」
『大丈夫・・・・みたいだ、ね?』
「・・・ええ」
『みんな心配している』
「・・・ごめんなさい」
『謝るくらいなら、一言言ってから出かけて欲しい、な・・・・』
「・・・ごめんなさい」
『フランソワーズ』
「・・・・なあに?」
『気持ちの整理はついた?』
「・・・・」
『アランに会えて、よかった?』
「?」
『・・・・嬉しかった?』
「?」
『・・・・・・・アランに好きだと言われて・・・キミは・・・』
「!? ジョーっあなたっ」


フランソワーズは慌てて周囲を見渡したとき、喫茶室から少し離れた壁際に並ぶイスに座って、携帯電話を手に自分を見ているジョーを見つけた。彼は立ち上がり、そのまま会話を続ける。


『一緒にいた女性は?』
「・・・通訳を頼まれたの、出版社の方。頼んでいらっしゃった方が来られなくて・・・」
『そう』
「・・・・いつからそこに居たの?」
『アランがキミに告白したいって言う、・・・・少し前』


ジョーは会話をしながらフランソワーズのところへと歩いていく。


「聴いていたの?全部?」
『・・・・全部じゃない。声が大きいな、アランは』
「・・・・どうして声をかけてくれなかったの?」


フランソワーズは少し拗ねたようにジョーを見上げた。


『迎えに来たよ、フランソワーズ』
「迎えに来たよ、フランソワーズ」


電話越しの声と、生の声が、フランソワーズの耳に重なって聞こえた。



「・・・ありがとう。心配させてごめんなさい」


フランソワーズはジョーを見上げたまま呟いた。


「・・・・心配、してないよ」
「?」
「・・・・心配してないよ、俺は」
「・・・」
「・・・・・驚いたけれど、キミを信じていた」
「?!」
「キミは、大丈夫・・・だ。と・・・信じていた、信じていたかったけれど、ちょっと不安だった、な」
「・・・不安?」







「キミが何も言わずに、アランと一緒にフランスへ帰ってしまうんじゃないか。と・・・思った、から」









ジョーは静かに、フランソワーズの隣のチェアに座った。
視線でジョーの動きを追うフランソワーズ。


「黙ってフランスへ帰ってしまうんじゃないか。と、思った・・・・彼と一緒に」
「・・・・どうして?」
「どうしてか、な・・・・キミは、彼のこと・・・」
「・・・・気づかなかったわ・・・今まで」
「え?・・・今まで、気づかなかった?」


聞き返してきたジョーの言葉にフランソワーズは頷いて、自分の手の中にある携帯電話を見つめた。


「そうよ・・・・憧れていたわ・・・素晴らしいダンサーだったから、それが・・・好きという気持ちに変わるのに、時間はかからなかった、と思うの」
「・・・」
「でも、”好き”とか、そういうのを忘れてしまうほど、バレエに夢中になったの・・・私にとっての”恋”は淡くて、小さすぎて・・・バレエの前では吹き飛んでしまうくらいに」
「・・・そんなに、バレエに夢中だったんだ?」
「ええ!!もちろんよっ!私の全てだったわっ・・・・・・私の・・・すべてだったの・・・」


顔を上げて、微笑んだフランソワーズの笑顔が哀しみに変わっていく。
バレエを語るときの彼女は美しく喜びに溢れているが・・・最後には必ず、碧い瞳を淋しさに潤ました。


「・・・」


少しの沈黙の後、フランソワーズはカフェオレを手に取り、まだ温かさ残るそれを口に含んだ。


「・・・・・初恋は実らないって本当ね?・・・自覚がなかったけれど・・・多分、彼が私の初恋・・・なの。そうなの・・・よ・・・・どこかに置き忘れてしまった気持ちを、イマサラ思い出すなんて、ほんと・・・のんびりしてるわ、私」

「・・・」


寂しげに微笑むフランソワーズは、砂糖の入っていないカフェオレのミルクで薄まった苦みがちょうど良いように感じる。不意に思いつきでジョーに訊ねてみた。


「・・・・・ジョーの初恋はいつ?」
「・・・・・・俺?」


フランソワーズの突然の質問にジョーの肩が震えた。


「そう、いつ?」
「・・・いつだろう、な」
「ジョーはとってもモテるから・・・・忘れてしまったのかしら?それとも、小さいころのことで覚えてないのかしら?」
「・・・わからないな、そんなの」


ジョーは微苦笑しながら、テーブルに置いてあったレシートを手にして立ち上がった。



「帰ろう、その前にミツエさんの”お使い”を済ませないと、な?」



歩き出したジョーの後ろ姿を見つめながら、フランソワーズは飲みかけのカフェオレをテーブルに置いて立ち上がり、彼の後を追う。


ピュンマよりも背が高く、アルベルトよりも少し低い身長。
ほっそりとして見えるけれど、近くでみるとわかる広い肩幅。
しっかりとした背中は柔らかく、温かかな鼓動は逞しい胸の奥から聞こえる。
すらりと長い足に、ジーンズがよく似合う。
履き慣れたスニーカーは、同じブランドを買い続けているもの。

009ではなく、島村ジョーの背中。




忘れていた”初恋”を思い出した理由は、彼。
彼に恋をしているから。




ジョーが好きだから。


2度目の恋に・・・初恋を思い出した。
一瞬だった、小さな恋は・・・まだちゃんと私の胸の中にあった。







・・・初恋があなたでなくてよかったのかしら?
「実らない」と言われる初恋が、あなたでなくてよかったと・・私は喜ぶべき?








ーーージョー、私はあなたが好き。

「・・・・フランソワーズ、何か言った?」




レジに立つジョーが振り返った。



フランソワーズの心臓が どきん。と鳴る。



口に出していたのかもしれない!と、慌てて手で口を覆って首を左右に振った。
ジョーは不思議そうな顔でフランソワーズを見るその顔が、微笑に変わり、彼女にむかって手を差し出した。




「帰る、よ・・・一緒に」







喫茶室を出るときに、フランソワーズは一度だけ自分が座っていたテーブルを振り返った。
保津川と出会い、エリオットと話し・・・そしてアランと・・・。



時間は過ぎていった。
それは過去となる。


今日は昨日へと変わる。







フランソワーズはもう、振り返らない。
ジョーと少し離れてしまった距離を埋めるように、小走りに彼のそばによった。








テーブルに残されたカフェオレ。
いつか2人で・・・アランと過ごしたような時間が、彼と過ごせるようになるのかしら?




フランソワーズは少し前を歩くジョーの横顔を見た。


栗色の髪が揺れて、琥珀色の瞳がまっすぐに前を向いていた。








####

雨が降った名残りの水滴がきらきらと反射する、夕映えの街。




ホテルを出て、コズミ博士の車を停めた駐車場へと向いながら、ジョーは初めて”1人で”バスと電車に乗った感想をフランソワーズに訊ねた。


「電車は大変だったわ」
「・・・迷った?」
「いいえ、迷わなかったわ。一度来たことがあったし・・・。みんな親切過ぎて・・・・切符の買い方も、乗り方もわかっているのに・・・ずっと色んな人から話しかけられたの、心配してくださってるから・・・わかっていてもつい、知らないふりをしてしまったわ」
「・・・・男だったろ?」
「え?」
「・・・・キミに話しかけたのは、男ばかりだった、だろ?」


助手席のドアを開けながら、フランソワーズは考え込んだ。


「・・・・男だったんだ、やっぱり」


彼女の沈黙が雄弁に語る。


「・・・・気づかなかったわ・・・」
「・・・一応、連絡が取れる状態であるなら単独行動は許可しているけれど」
「ごめんなさい、携帯の電源が入っていなかったなんて・・・これからは、ちゃんとチェックするわ」
「・・・・・・・いや、キミの場合は、そういう意味じゃなく」
「?」


ジョーはキーを差し込み、エンジンをかける。


「・・・・車を出すから、言って欲しい」
「無理な時もあるわ。もう大丈夫よ?一度乗ってしまったら簡単だったわ」
「・・・・・・出す」
「無理しないで」
「・・・・・・・・・・・・無理じゃない」
「・・・・心配しすぎだわ」


ジョーはアクセルを踏み、ハンドルを左に切った。


「・・・・心配する、さ」
「さっきは、信じてたって・・・言ってくれたわ」
「・・・・・・・それと、これとは・・・違う」


駐車場から路上へと出るために、ジョーは助手席側の方から車が来ないか確認する。フランソワーズは背をシートに押しつけて、視界の邪魔にならないようにした。


「どう違うの?」
「・・・・どう違うって・・・」


ハンドルを右に切って路上に出るが、すぐに点滅信号にひっかかりブレーキを踏んだ。


「・・・・可愛いから、だろ?」
「・・・え?」
「キミが、可愛いから・・・・心配なんだ、よ」
「!」
「みんな」
「・・・・」
「みんな、キミのことが可愛くて仕方がないんだ・・・だから、いつでも仲間の誰かがついてないと、な」


ジョーの言葉にフランソワーズは大きく溜息を吐いた。


「兄さんだけでも大変だったのよ・・・」
「・・・・・・7人も、増えたね。あ、イワンと博士もだ」
「・・・7人?」
「・・・・・・・9人だね」
「10人じゃないの?」
「・・・・・・9人だ、と思う」
「あ、イワンの場合は兄じゃなくて、弟だもの、ね?」
「・・・・・・・・・そうだったね」




ピュンマがミツエから聴いた△△駅へと向かうために車を走らせる。













ーーーキミの兄さんは、もう十分にいるから・・・なるつもりはない、よ・・・・





キミが誰を想っていても、俺はキミのそばにいたい。
この気持ちを言葉にすると ”好き” と言う言葉になるなら、そうなのかもしれない。




初恋は実らない?



本当だろうか?




 

・・・・・・・・俺の初恋は、今。


・・・キミが・・・その人・・なんだけど、ね・・・。










実らない、なら・・・想っているだけでもいいだろ?
・・・キミを誰よりも特別に想っている・・・だけなら・・・






####


ミツエに頼まれていた”お使い”を済ませた後、フランソワーズは車内からコズミ邸に電話を入れた。電話口でミツエに頼まれていたものを無事に購入できたこと、ジョーと合流したので車でコズミ邸に戻ることを伝えた。そして、ジョーを除いたメンバーひとり、ひとりにメールを送った。




”やっぱりジェットだったのね!・・・怒ってないわ。心配させてごめんなさい、今から帰ります”


ジェットはすぐに返信を送った。 ”いや、オレじゃねえ” と。


***


”心配させてしまって、ごめんなさい。でも後悔はしてないわ・・・すべて終わりました。ちゃんと、答えを見つけたわ、また話しを聴いてね”


アルベルトは口角を上げて嗤い、隣に座るピュンマを見た。まもなく、彼の携帯がメールを受信したことを告げた。



”心配してくれてありがとう、黙ってでかけてしまってごめんなさい。ジョーとホテルで会うことができました。・・・まもなく、そちらに着きます”


ピュンマはメールを読んで、嬉しそうにアルベルトを見ていった。


「ジョーはちゃんと、フランソワーズに会えたみたいだね」
「ああ、そのようだ。これでALL SETだな」
「・・・まだ、飛行機の件が残ってるよ?」
「あれは・・・だいたいのことは検討がついた」
「?!いつの間にっ」
「時代だな、あれは」
「時代?」
「・・・・・・当時は、よくあったことだ。倒産寸前の飛行機会社がわざと”飛ばない飛行機”のチケットを売って資金稼ぎだ。・・・あの時代に”キャンセル料や払い戻しなんて洒落たものはなかったしな・・・調べてみたら、フランソワーズの買った飛行機会社はフランソワーズがチケットを購入した日から5ヶ月後に倒産していた・・・」
「・・・それじゃ、彼女は16日の飛ばないチケットを購入していた?」
「そういうことだ・・・まだはっきりしてはいないが、・・・何せ、その会社がすでに存在していない」
「B.Gのせいでは・・・なかったんだね?」
「・・・世間知らずのお嬢さんだったことが、証明されただけだ」

意地悪くアルベルトは嗤った。

「それ、フランソワーズに言ったらダメだよ!」
「・・・むこうに戻ったら報告はするぞ?飛行機の件はこれでほぼ説明がつく」
「それはいいけどっ、世間知らずってことだよ!」
「事実だ」

ピュンマは溜息をつきつつ、もう一度フランソワーズから送られたメッセージを読んで返信を打ち始めた。

「事実でもっフランちゃんを傷つけたら灰になること、忘れたらダメだよ!」





***



”大丈夫です、心配してくれてありがとう・・・張大人の御飯が食べたいわ!”


「アイヤ~!!早く戻ってくるアルよ!」


ギルモア邸で夕食の準備をしていた張大人が声を出した。
隣で手伝いをしていたグレートが、そのメールをのぞき込むようにして読んだ。


「・・・我が輩には?」
「ワタシの方が先だったアルな!」

グレートは自慢げに携帯電話を見せる張大人に苦々しい顔をしつつ、リビングのテーブルに置きっぱなしにしていた携帯電話を確認した。新着メールの表示に小躍りするようにキッチンへと戻っていく。


「見ろ!!受信時間は我が輩の方が早いっ!!」


グレートは胸をこれでもか!と言うほどに反らして自慢げにメールを見せた。
張大人は、メールを確認してむっとする。


”・・・どうして、009に殺されるの???また、彼をからかったのね?・・・私は大丈夫です。情報をありがとう・・・感謝しています。”


「アンさんなんて、感謝される価値なんてないネ!!フランソワーズを1人でホテル行く理由を作ったのは、グレートなんだからネ!」
「何でも言うが良い!終わりよければすべてよし!だ!!」
「~~~~~~~~~っ!!夕食はあんたのためにっキノコづくしに決めたアル!」
「なあああにいいいいいっ!我が輩はキノコ類がキライなんだぞっ」
「感謝して、グレートの嫌いなものをおいしいいいいいいいく料理するアル!スキキライを直してあげるネ!」
「そんな感謝はいらんゾっ!」





***



”私は大丈夫よ。前を向いているわ!”

「・・・もう少しの辛抱だ。」
「どうしたんじゃ、ジェロニモ?」


ギルモアの書斎に新しい本棚を作っていたジェロニモが、尻ポケットに入れていた携帯を取り出して、その携帯に向かって呟いた言葉を、ギルモアが訊ねた。


「フランソワーズは無事だ、博士。多分、ジョーと合流した。」
「おお!そうか!!良かったのう・・・あの子を1人で大きな街を歩かせるなんて、まだ早いからのう・・・心配したわい」
「フランソワーズは大丈夫」
「・・・わかっておるわいっっ!!・・・・ただ、いらん”虫”がついてしまわんか、心配なだけじゃ・・・」
「・・・飛んで火に入る夏の虫」
「なんじゃ、それは?」
「フランソワーズに手を出すやつのことを言う」
「・・・燃えるのか?」
「燃えて灰になる」
「・・・・・そうか。うむ・・・そうじゃのう・・・気をつけてやらねばいかんのう・・・灰になっては困るわい」
「博士、このくらいの大きさでいいか?」


ジェロニモは携帯を尻ポケットにしまい、家具屋から送られてきた本棚につける段の高さを確認した。


「・・・お。そうじゃな、それで頼むよ」
「わかった」







携帯電話と一生懸命に格闘していたフランソワーズが、それをカバンの中にしまったので、ジョーは彼女に話しかけた。


「・・・終わった?」
「ええ!・・・・返信できたわ」
「全員?」
「もちろん」
「・・・・もうすぐコズミ邸だ、よ」
「そうね」


コズミ邸と聴いて、フランソワーズは昨夜のさくらの言葉を思い出した。


”ジョーはあなたなんかを見なくなるっ!!!”

”みんなにチヤホヤされてっ”

”思い上がっていればいいわよっ!”





”ジョーがあなたなんか好きなはずないわっ”






膝の上にあるカバンをぎゅっと握りしめた。




ーーー私が勝手にジョーを好きなだけよ・・・






「・・・どうかした?」
「ううん、・・・少し疲れたみたい・・・」
「・・・・もうすぐだから」
「・・・ええ」


フランソワーズはゆっくりと空気を吸って、言葉を選ぶ。
頭の中にその科白を並べて、読み上げた。



「ジョー・・・」
「・・・?」
「前にも言ったけれど・・・あまり、私に優しくしないで?・・・仲間であっても。その・・・女性として・・・あまり優しくしないで・・・特にさくらさんの前では・・」
「・・・・・普通だ、よ・・みんなと、同じ」
「でも、さくらさんの目には、そういう風に映らないわ・・・彼女はジョーが好きなのよ?」
「・・・・それで?」
「自分の好きな人が・・・他の女性に優しくしたりしていたら、よい気分ではないわ」
「・・・・・だから、なに?」
「彼女が傷つくわ」
「・・・・・何か言われた?彼女に」
「何も言われてないわ、そう思っただけ」
「・・・・・・さくらは、とてもいい子だけど、彼女の気持ちを・・受け入れる気はない」
「・・・・・・・ジョー・・やっぱり・・」
「・・・・・・彼女が人で、俺がサイボーグだと言うことを気にしてる、と思ってる、か?」
「・・・さくらさんなら・・・きっと理解してくれると思うわ・・・私たちはそういうことをこれから考えて生きていかないといけないもの」
「・・・・考えるつもりはない」
「どうして?」
「・・・・・・・必要ないから」
「そんなの、哀しいわっ!サイボーグでもっ人を好きになったりしても・・・・・いいでしょう」
「・・・サイボーグが人を想っても、いいと思う、ダメだとは言わない、さ」
「・・・」
「・・・・・・でも、俺には必要ない考えだから」






ーーー俺は・・キミを・・・想っているから・・・・












「さくらさん、可哀相よ」



ジョーは乱暴にブレーキを踏んだ。
前に傾いたフランソワーズの躯にシートベルトが食い込む。


「・・・俺の気持ちは?」
「え?」
「・・・・・フランソワーズ、俺の気持ちは・・・?」


温かくなるにつれて長くなったが日が、夕闇の時間を遅らせていた。
残照残る空をフロントガラス越しに見る。


「・・・・可哀相でも、俺はさくらを受け入れられない」
「・・・ごめんなさい、私が口を挟むことじゃないわよね・・忘れて?・・・私も、聴かなかったことにするわ」
「・・・・忘れなくていい」
「・・・ジョー、だからっ」

「キミが知っていればいい、よ。俺の気持ちは、さくらを受け入れるつもりはない。彼女を好きにはならない。友人だと言う以外、何も思わない」


フランソワーズの方へは向かず、前を向いたまま言い切った。



「・・・・・覚えていて、それだけ」
「・・・ごめんなさい、私やっぱり・・・疲れてるわ・・」
「・・・・・覚えていて・・・」
「・・・」


車はコズミ邸の前に停まっている。
フランソワーズはシートベルトをはずし、助手席のドアを開けて外に出る。後部座席のドアを開けて、置いておいたミツエに頼まれた”お使い”の菓子がはいった袋を手に取った。
後部座席のドアが閉まったのを確認してから、ジョーは車を車庫へと移動した。


「・・・さくらさんじゃないのなら・・・誰を・・・?」

車がコズミ邸裏にある車庫へと向かっていくのを見送りながら、ジョーの言葉を反復する。そして、さくら意外に誰がいるのだろう、と疑問に思った。





ーーー私はあなたが好きよ、ジョー・・・想うことは自由でしょう? あなたが誰を好きでも・・・・






カバンの中にしまわれている2枚のビジネスカード。
一枚は保津川、もう一枚はエリオットのもの。
スカートのポケットに入れていた、1枚のビジネスカードはアランからのもの。

フランソワーズはポケットから長方形の白い、カードを取り出した。
裏に、アランが書いたメッセージと彼の自宅の電話番号。そして、メッセージが添えてあった。






ーーー君に出会えたことを神に感謝します。 
   友人として、いつでも連絡をください。







フランスの香り。
故郷、パリの香り。

フランソワーズはビジネスカードをそっと両手に乗せ、顔に近づけて深く息を吸い込んだ。
カードを再びポケットにしまい、コズミ邸の玄関のドアを開けるとミツエがフランソワーズを出迎えた。





####



車庫に車を戻してエンジンを切り、出てきたところをピュンマがジョーを出迎えた。


「お疲れ様っジョー・・・!」
「ピュンマ・・」
「これで、もう大丈夫だよね!!」
「・・・・・ああ、多分」


弱気な返事をするジョーに、ピュンマは顔を曇らせた。


「・・・何かあったのかい?」
「いや、別に」
「ほらっ!そうやって隠してしまうからっ小さなことがドンドン大きくなって後で後悔するんだよっ!自分の事となると全部をこころの底に押し込めてしまうんだ!・・・・ボクたちは、戦うためだけの・・・それだけの・・仲間じゃない、と・・思ってるんだから・・・さ」


ピュンマの言葉にジョーは微笑する。彼の優しいこころ使いにジョーはいつも感謝していた。
けれども、自分の気持ちを打ち明けると言うことが不慣れ、または不得意なジョーにとっては、どうピュンマに説明していいのかわからずに、いつも黙り込んでしまう。


「・・・・ありがと」


消えそうな声でピュンマに礼を言い、コズミ邸の正面玄関の方へと歩いていくジョーの隣を歩きながら、ピュンマは自分の胸にある言葉を口にした。


「我が儘になってもいいんだよ?」


突然のピュンマの言葉に足を止めた。


「恥ずかしいことでも、いけないことでも、なんでもないんだよ?むしろすごく素晴らしいことなんだ・・・人を好きになるって・・・。人を想うことで、その人を不幸にするとか、迷惑だとか、余計なことを考える前に、ちゃんと自分の気持ちに正直でいることの方が大切だと思うんだ・・・ジョーはもう、十分にいろんなことを我慢して、がんばっているんだから、さ。自分の気持ちに少しくらい我が儘になっても誰も君を責めたり、怒ったりしないよ?・・・むしろ、みんなは待ってるんだけど・・・」

「・・・・彼女には想う人がいる・・・と、思う」


ピュンマの言葉の語尾にかぶるようにジョーは呟いた。


「っだから、やっぱりここはジョーから、さあ」
「・・・?・・・・俺、が何を?」
「え?」
「・・・・・・・彼女は俺のこと、なんとも思ってない、よ」
「っええ?!」
「・・・・・・・彼女が幸せなら、それでいい」
「ちょっ!ジョーっいったい何処でそんな情報をっ」


再び歩き始めたジョーを呼びとめようとしたが、ピュンマの声にジョーは足を止めることはなくコズミ邸へと入っていった。


「いったい、どこで何がどうなってっっそうなるんだよっ?!フランソワーズはジョーが好きなんだよっ?!それでっジョーっっ!!君もフランソワーズが好きなんだろ?!・・・・簡単なことじゃないか!」



1人残されたピュンマは、春の夜空に浮かんだオレンジ色に輝く牛飼い座のアルクトゥールスと、乙女座のスピカ(真珠星)を見上げて、こころの声で叫んだ。


ーーー春の夫婦星・・だよね?・・・どうにかしてよっあの2人!!!












====29 へ 続 く

・ちょっと呟く・

・・・・原作の星祭りの夜を読んだでしょ?>8

やっと、モルちゃんが片づいた・・・・・?(←あ!)
モルちゃんをきっかけにして自覚しましたね!
でも、お互いに同じことで勘違いしてるし~・・・・。

すれ違いって書くの難しいです。。。
ラブラブさせたいなあ。
でも、まだ書いてないネタが山になってるので、がんばれ!>9.3
web拍手 by FC2
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。