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Day by Day・29

フランソワーズはきっと、俺の知らない誰か・・・が、好きなんだ。
さくらさんじゃないのなら、ジョーのこころにいる人は・・私の知らない人・・・






それでも、キミが好き、だ・・・
それでも、あなたが好き、なの・・・








想いは変わらない。
想うことは自由。






伝えられない。
伝えてはいけない。












こんなに近くにいるのに・・・

手を伸ばせば、届くはずなのに・・・






笑顔がそこにあるのに・・・










優しくしないで、あなたに触れたくなるから。
優しくしないで、あなたに甘えたくなるから。

微笑まないで、キミを抱きしめたいから。
微笑まないで、キミが欲しくなるから。










どうしてキスしたの?
ーーーキミが好きだから


好きって言ったよね?
ーーーあなたが好きだから











####


さくらの部屋の窓から見える風景は、コズミ邸の正門。

ジョーが”仕事”の所用でミツエからコズミの車を借り、出かけたことを知ったのは遅くに取った昼食の時。家にフランソワーズの姿がなかったので何処へ行ったのかを訊いたら、彼女は別の所用で○○市へ出かけたと聞いた。


さくらはジョーの帰りを待っていた。
”昼前”に交わした会話をきっかけに、自分との関係がおかしくならないように、ジョーが戻ってきたら、何もなかったように彼を出迎えるつもりで、ジョーの運転するコズミの車が帰ってくるのを待っていた。

夕方になると車の通りが無くなってしまう、町はずれの住宅街にあるコズミ邸。車のエンジン音が聞こえ、門前で止まった音に、自室で読みかけていた雑誌をパラパラとめくっていたさくらは、飛び上がるようにして窓へ駆け寄った。


明るい部屋のライトが窓ガラスに反射し、さくら自身と部屋を鏡のように映し出して外が見ずらい。
慌ててさくらは窓を開けた。
門前の照明に、一定間隔にあかりが灯った外灯が1台の見慣れた車をくっきりと浮かび上がらせる。


「?」



車は少しばかりそこに停車する。
コズミ邸の車庫や邸の裏庭の方にあるために、角を曲がって裏へとまわらなければならない。
ジョーは1人で出かけたはず。正門前で車を停める理由がない、とさくらは思う。


車の助手席のドアが開いた。




下唇を巻き込むようにして噛んだ。
うすく塗ったグロスが ぬるり と、舌に不快な感触を与える。



車の助手席から、亜麻色の髪の女性。
コズミ邸の正門に取り付けられたライトが、彼女の柔らかな髪に天使の輪を浮かび上がらせてる。
彼女を降ろした車は、裏の車庫へと移動した。


ーーーなんで?・・なんとも思ってないんでしょ?応援するつもりがないのなら、邪魔しないでよ!!




窓を開けたまま部屋を出た。玄関に向かい、ミツエに”お使いの品”を渡しているフランソワーズに、さくらは笑顔で「おかえりなさい」と言った。


「・・・ただいま、さくらさん」
「1人だったんですか?」
「いいえ・・・途中で・・・」


さくらの質問が何を訊いているのかが、厭でもわかる。


「帰りに島村くんと合流したんですって、帰ってくる場所は一緒だしねえ。車の方が楽でしょお?」


のんびりとミツエは受け取った袋を手に嬉しそうに、フランソワーズの変わりにさくらに答えた。


「へえ、そうなんだ・・・2人だったんだ」
「・・・」
「お夕飯の支度は出来ているのよ、さ・・フランちゃん疲れたでしょ?荷物を置いてゆっくりしてちょうだい?」
「あ・・・手伝います・・・から」
「いいのよ!私の我が儘で寄り道してもらってきたんですもんねえ、さ。ゆっくりしてちょうだいな」
「・・・ありがとうございます」


ミツエに促されるままに、フランソワーズは自分に用意された、邸の南側の6畳の和室へと向かった。少し距離を開けてさくらがついてくる。部屋へ戻る途中の廊下で足を止めて、フランソワーズはさくらに振り返る。


「・・・あの、なにか・・?」
「話せますか?」


さくらはにっこりと笑顔で答えた。


「何かしら?」
「はっきりさせたくて」
「・・何・・を?」
「フランソワーズさんの、お部屋に行っても良いですか?」
「・・・」
「いいですよ、ね?」


強く言い切るさくらに、フランソワーズは静かに頷き、再び足を部屋へと進めた。
廊下の突き当たりを左に曲がる。反対側の西の2つの和室にアルベルト、ピュンマ、ジェット、そしてジョーが寝起きしていた。フランソワーズは襖を開けて先にさくらに部屋へ入るように促してから、部屋に入った。持っていたカバンを、荷物をまとめている角に置き、座布団をさくらに出した。さくらは黙って出された客間と同じ菖蒲色の座布団の上に腰を下ろす。フランソワーズも距離を置いて、部屋でいつも使っている紅緋色の座布団の上に座った。


さくらはハッキリと言い切った。

「私、ジョーが好きです。ジョーも私の気持ちをしっています」
「・・・昨日、訊いたわ」


さくらは真っ直ぐに、憎らしいほど澄み切った大きくて魅力的な、フランソワーズの空色の瞳を見つめた。


「応援してくれなくてもいいです。フランソワーズさんからの応援なんていりません」
「ええ、さくらさんには、私の応援は必要ない・・と思うわ」
「応援なんて入りませんから、邪魔だけはしないでください」
「邪魔?」


フランソワーズは、首を傾げてさくらの言葉を聞き返した。さらりと甘いハチミツ色の髪が肩から流れる。フランソワーズの動作のひとつ、ひとつがさくらを苛つかせた。
座っている座布団をぎゅっと握りしめて、叫びたい衝動を抑えながらさくらは話しを続ける。


「そうです、邪魔だけはしないで」
「・・・そんな風に見えるの、ね?」
「見えます」
「・・・」
「はっきり、させてください」
「なに、を?」
「嘘もごまかしも、何も訊きたくないです」
「・・・」
「みていれば、フランソワーズさんがどういう風にジョーを思っているかなんて、気が付きます」
「・・・」
「簡単ですよ」
「・・・・・・」


フランソワーズの瞳が翳る。
彼女の形良いふっくらとしたくちびるが、不安げに微かにふるえた。


「ギルモア邸のみんなのアイドルで、チヤホヤされて・・・十分でしょ?大切な家族なんでしょ?仲間なんでしょ?だったら、それ以上のことは望まないでよ」
「・・・なに、それ・・・・」
「みんなから、フランソワーズ、フランソワーズって・・・甘やかされて、それが当たり前になってるんですよね?」
「・・・どうして、そんなことを言うの?」
「ジョーだってそうでしょう?別にフランソワーズさん以外の女性が仲間で家族だったとしても、きっと同じように優しいわ」
「・・・何が、いいたいのかしら?」
「私はジョーが好き。まだ、ジョーはちゃんと私を知らないし、私もまだ、ジョーをちゃんと知らない。時間が必要だと思うわ。・・・私のひと目惚れだし、ジョーも私に好きだって、いきなり言われても、彼は人の気持ちに敏感で・・・慎重な性格っぽいし、人見知りもするみたいだし、私みたいに一目で好き!って言うような、感覚的なタイプじゃないから、きっと・・・。だから、時間が必要なのよっ。彼が私のことを見てくれて、考えてくれて、好きになってくれるために!あなたが、ただの”大切な家族”で”仲間”であるだけならっっその間、邪魔して欲しくないわっ!・・・・・それとも、あなたは私のライバル?」


部屋に、さくらの声だけが空気を振動させる。
さくらの強い眼差しを全身で受け止めながら、フランソワーズは呼吸をするのを忘れてしまったかのように息を詰めた。躯中の細胞が酸素を求めて暴れ始めるのを抑えるかのように、薄く空気を吸い上げた。喉を通る生温かい感触。想いを言葉に乗せて発することが、こんなにも苦しいとは、フランソワーズは今まで知らなかった。


「・・・ジョーが好き。さくらさん、私、ジョーが好きよ」

黒く濡れた黒曜石のようなさくらの瞳を見て、フランソワーズは初めて、ジョーへの想いを口に出した。


「・・・家族や仲間って言葉に隠して、卑怯よっ」
「ジョーが大切な家族で、仲間であることは本当ですもの。それは何も変わらない。・・・・・・今まで、誰にも私の気持ちを打ち明けたことがなかっただけよ?・・誰にも訊かれたことないわ」
「フランソワーズさんはライバルなんですね?」
「・・さくらさんのライバル、じゃないわ」
「?!っっっっまだっそんなっ好きなくせにっ!」


さくらは怒りを込めて声を荒げて怒鳴った。
怒りで細い肩が揺れている。


「・・・私はジョーに自分の気持ちを言うつもりはないんですもの・・・ライバルには、ならない。なれない」
「告白する、しないは、フランソワーズさんのかってよっ!私には関係ないわっ。ただ、私は知りたいのっあなたは、私のライバルなの?違うのっ?邪魔するなら、私も考えがあるからっ!!・・・フランソワーズさんがジョーに告白したって・・・・・・っジョーがあなたを好きなはずないんだからっ!!」


さくらの脳裏によぎる、昼間ジョーが言いかけた言葉。
彼が想う人の名前。

フランソワーズであるはずがない!と、自分に言い聞かせるように言葉を彼女にぶつけた。



「・・・好きなはずない?・・・・好きに”なる”はずが、ないでしょう?」
「っっ!」
「・・・わかってるわ・・彼にとって、私は家族で仲間だもの・・・ジョーが私に特別な気持ちを抱くことは、ないわ」
「ジョーは優しいっ・・・男所帯のギルモアの家にいるあなたが不憫なだけよ・・・勘違いしないでねっジョーは”特別”フランソワーズさんにだけに優しいんじゃないわっ」
「・・・そうね・・・・・私はさくらさんのライバルじゃないわ・・・私はずっと・・・・ジョーの”大切な家族”で”仲間”。・・・それでも、さくらさんの応援・・・は、できない。ごめんなさい。けれど、さくらさんの邪魔は、絶対にしない。・・・邪魔はしません。する、つもりもないわ・・・」
「・・・絶対ね?」
「ええ・・・私の好きと、さくらさんが思う”好き”とは少し違う気がするわ・・・。好きなら、みんな好きだもの・・ギルモア邸のみんなが好き。大好きよ。でも、ジョーを想う気持ちは・・・言葉にするのが難しいわ・・・。言葉にするなら・・・”好き”と言う言葉が一番近いと思うの・・・・でも、少し違う・・・・」


フランソワーズは目蓋を閉じて、思い出す。



009の背中。
ジョーの背中。



光を浴びて金茶に変わる髪。

強い眼差し。
ときに、寂しそうに揺らぐ瞳。


厳しさを込めた声に・・・含まれた温かさ。
優しくさしのべられる手。



”フランソワーズ”ではなく、”キミ”と呼んでくれる彼が・・・・





フランソワーズは晴れた空色の瞳をさくらに向けて、優しく微笑んだ。
微笑みは明るく、温かい。



さくらは言葉をなくす。
言ってやろう!と思っていた言葉。それらは温かな紅茶に溶けていく砂糖のように、消えていく。
用意していた言葉は砂糖のように甘い物ではなかったはずなのに・・・。



彼女は言った。

ジョーが好き。

同じ人を好きになった。





彼女は1人の男を奪い合う、ライバル=敵。
口では”違う”と言っても、本心はどうだかわからない。

女は狡い。


恋の勝利者になるためには、どんな手だって使う。
やさしい天使のようなみかけに騙されない。



騙されない。


そうやって・・・今までもみんなから愛されるように”仕組んで”きたんでしょっ!



・・・・・違う?





「・・・・人には人それぞれに”想い”を表した”好き”があるわ・・・そう、思わない?」
「・・・」
「さくらさんの言う”好き”と、私がジョーを想う”好き”は言葉は同じでも、まったく別のものだと思うの・・・彼に望むことを、含めてね」
「・・・」
「さくらさんは、今までお付き合いされた経験があるのかしら?」
「バカにしてるの?ないわけないじゃないっ!!」
「・・・・バカにして訊いたんじゃないわ・・・私はないもの・・」
「?!」
「ないの・・・一度もよ?・・・・・だからかしら・・・・ね?・・・・さくらさんがジョーに想う形と私の想う形は違うわ・・・・ライバル、とか・・・・そういうの、人を”想う”ことに必要なこと?」
「っジョーが好きならっ彼を独り占めしたいって、ずっと彼と一緒にいたいって、自分だけ見てって私だけの人になって欲しいでしょ!」
「・・・・・無理よ・・・そんなの」
「っ私には無理っていうの?!」
「違うわ・・・ジョーはジョーでしかないの。一緒に居ることはできても、彼がさくらさんだけを見ることになっても、ジョーはジョー・・・彼は彼で有り続けるわ」
「っわかったようなことっ言わないでっ」


さくらは立ち上がり、乱暴に襖を開ける。
フランソワーズに背を向けたまま、はっきりとした口調で言った。


「とにかくっ邪魔はしないでっ!」
「しないわ。するつもりもないわ」
「だったらっ・・・・・今日みたいにっこそこそ2人きりで出かけたりしないでっ!デートみたいなことはっ・・・しないでねっ」


フランソワーズの方に振り返ることなく廊下を出て、襖を音を立てて閉めた。
さくらが閉めた襖の音に弾かれてジョーの声がフランソワーズの脳裏をよぎる。



ーーーさくらは、とてもいい子だけど、彼女の気持ちを・・受け入れる気はないーーー




ほんの数十分前のこと。
ジョーははっきりとフランソワーズに言い切った言葉。



「・・・・・・・人の気持ちはかわるもの・・・」


ーーーだってそうでしょう?・・・私がそう・・・だったわ。

アランへの憧れの気持ちは、バレエへの情熱へと溶けていった。
彼への淡い小さな気持ちは、バレエを踊り続ける喜びの中に隠れて見失っていた。




フランソワーズは深呼吸を繰り返す。
呼吸を繰り返すたびに息が熱くなっていく。
胸が焼けるように痛み、喉がきゅうっと締め付けられてヒリヒリと乾き出す。
だんだん浅くなっていく呼吸に肩が揺れ始める。
ぐっと息を吐き出さずに、咥内に押しとどめてから・・・吐き出した。



ーーーさくらさんじゃないのなら、いったい・・・誰を・・・・・・・・





ジョーは優しい。
009は優しい。


彼の腕が003である以外の自分を受け入れることはない。
家族/仲間/サイボーグであることが、ジョーとの関係のすべて。


彼は優しい。



その優しさに勘違いなんてしない。




好き。
ジョーが好き。










好きという言葉は簡単だけど
好きと言う言葉だけでこの気持ちをあわらしたく、ない。





ジョー、あなたを想っているわ。
あなたが誰を好きになっても、私はあなたを想い続けていく、いきたい。



ジョー・・・・
この気持ちはあなたにとって、迷惑でしかない?



フランソワーズは閉められた襖に視線を向けたまま、その白い手でこぼれ落ちた雫を拭った。







####


コズミの車を借りて、ジョーがフランソワーズとアルベルトの2人をギルモア邸まで送る。

5日間をコズミ邸で過ごしたフランソワーズは、イワンが目覚めたことによりギルモア邸へ帰ることが決まった。と、同時に、コズミ博士の帰国が予定よりも3日早まると言う連絡が入ったことから、グレートとは交代せずにフランソワーズと共に、アルベルトも邸へ戻ることになった。
ジョー、ジェット、ピュンマの3人がそのままコズミが戻るまで、コズミ邸に留まる。



助手席にはアルベルトが乗り、フランソワーズは後部座席にゆったりと身を沈めていた。窓から見える街や車の流れを何も考えずに眺めている間に、静かな車内、ときおり思いついたように、静かに会話を始めるアルベルトとジョーの淡々とした、心地よい声音に、いつの間にか彼女は眠りについていた。


運転中に時々、バックミラーで眠っているフランソワーズを見るジョーは、穏やかに、幸せそうに笑って眠っているフランソワーズに、目元を緩めた。


「よく、眠っているな」
「・・・・みたい、だね」
「疲れているだろうな、色々あった・・・から、な」
「・・・・ミツエさんといるときは、楽しそうだった」
「懐いてたな」
「・・・・ギルモア邸だと、1人だし」
「張大人がいるだろ」
「・・・・・・・男、だろ?」
「ときどき、ミツエさんにかまってもらえるように・・頼むか?」
「・・・・本当に、そう彼女が望むなら、彼女からミツエさんに連絡する、よ」


腕を伸ばし、カー・ラジオをつけて適当にチャンネルをいじるアルベルトは、クラシックが流れる、それに決めた。ボリュームを音楽が聴こえるか、聴こえないかのギリギリまでに下げる。


「で、わかったのか?」
「なにが?」
「人を好きになるって気持ちが、どういうもんか」
「・・・・・なんだ、よ・・いきなり」
「よく、寝てるな、本当に」


躯をひねり、運転席と助手席の間から後部座席のフランソワーズを眺めた。
フランソワーズはシートの上に横になり、子猫のように躯を丸めて、眠りが深いことを表すように健やかな寝息を規則正しくたてつつ、眠り続けている。


躯を元に戻してバックシートに背を預け、アルベルトは信号が赤に変わってブレーキを踏んだジョーを観ずに、話しかけた。


「・・・わかったのか?」
「・・・・・さあ、ね」
「わかったら、わかったで大変だな」


ジョーは視界の端でアルベルトが嗤ったのが見えた。


「・・・・・余計なお世話、だ」
「わかったんだな?」
「・・・・」
「やっと、認めたな」
「・・・・・認めた?」
「オレなりの表現だ、気にするな・・・」
「・・・・」


アクセルを踏み、慎重にハンドルをきる。
いつもジョーが出すスピードよりも遅く走らせていることを、アルベルトは気づいている。


「で、どうするんだ?」
「・・・・・なにを?」
「蒼い目の子猫を、だ」
「・・・・・・どうもしない」
「ピュンマが、嘆いてたぞ?」
「・・・・・ピュンマが?」
「いい加減にしろって、さ」
「・・・・・・関係ないだろ?」
「大ありだ」
「・・・・・ない、よ」
「ある」
「ない」
「ある」
「ない」
「ある」


カー・ラジオから短く局の紹介をする抑揚のない男の声が流れて、ピアノ独奏曲に変わる。
アルベルトはその音に聴き入った。


「・・・・ない・・ない、よ」
「・・・・あるさ、お前のために、な」
「・・・・・・俺の・・た、め?」
「そうだ。お前のためだ」
「・・・それこそ、よけいだ、よ」
「そういうな。・・・・・詳しくは知らんが、方法なんてなんでもいいんだぞ?」
「・・・・・」
「抱いてやればいい」
「・・・・・・っできるわけないだろ」
「得意分野だろ?」
「・・・・一緒にするな、よ」


フロントガラスの映像が、街から外れてただの舗装された道路と空を映し出す。
少しずつカーブが増えていく中、車のスピードが一段と遅くなった。


「勘違いらしいぞ?」
「・・・・らしい、だろ?」
「本人に訊けばいいだろ、一番早い」
「・・・・・・」
「訊けよ、ジョー」
「・・・・・・」
「誰が好きなのか、訊け」
「・・・・訊く必要ない」
「訊け、逃げるな・・・・」
「・・・・・・逃げてない」
「訊いてやれ、まってるぞ」


ちらり とアルベルトは視線を後ろへと送る。


「・・・・・ない、よ」
「・・・・・・手をのばせば、いいだけだ」
「・・・・簡単に言うな、よ・・・」
「簡単なことだ」
「・・・・・・・俺は相応しくない」



「お前・・・・まったく、手のかかる末っ子だ」





まっすぐに前方を見据え、厳しい表情のままハンドルを握りしめる、その姿は、今から適地へ乗り込むためにドルフィン号のハンドルを握り、勝利を確信する強い光を放つ瞳の009。とは、大きくかけ離れた・・・危うく、不安げに翳る琥珀色の瞳。に、アルベルトは短い溜息を吐いた。


ーーー「ジョーの頭の中には009の人格を形成する、もうひとつの脳がある」って言ってたな?

009のときと、島村ジョーのときとの差がありすぎるので、冗談でギルモア博士に尋ねたメンバーの1人の言葉に、ギルモアは腹を抱えて笑い、「そんなものがあるならっ一番最初にお前につけとるわい!」と一蹴された。



ジョーとアルベルトの間にそれ以上の会話はなく、ギルモア邸に到着した。
ジョーが座席下のバーを引っ張り、トランクを開けると、アルベルトはさっさと2人分の荷物を持ってギルモア邸へ入っていこうとする。そんなアルベルトをジョーは呼び止めようとしたが、寝ているフランソワーズを起こしたくなくて、声を出さずに脳波通信でアルベルトを呼んだ。


<・・・放っておくのかよ?>
<荷物を2人分持つんだ、車だったもんで本を借り過ぎた。子猫くらい軽いだろ?>
<・・・・・なんだよ、それ>
<お前の役目だろ、いつも通りに・・・厭なら起こせ>

アルベルトはそれ以上の会話をしない。と言う意味で通信を切った。





後部座席のドアをジョーは静かに開けた。



無造作に広がった甘いハチミツ色の髪。

小さな白い両手を胸元のあたりで軽くにぎり、線の良い顎をその手の甲に寄せるようにして、まぁるく丸まった小さな躯は靴を履いたまま、器用にシートの上に乗って・・・



幸せそうな寝顔。










ーーー前にも言ったけれど・・・あまり、私に優しくしないで?
   ・・・仲間であっても。その・・・女性として・・・あまり優しくしないで・・・
   特にさくらさんの前では・・・。




キミは、さくらと・・・何かあった?

・・・キミがそう望むなら・・そうしよう、と思う。





ーーー・・・さくらさんなら・・・きっと理解してくれると思うわ
   ・・・私たちはそういうことを、これから考えて生きていかないといけないもの





彼女が人で、俺がサイボーグだと言うことを気にしてる、とキミは思っていた・・・だから、さくらの気持ちを受け入れないと?

違う、よ。







ーーーそんなの、哀しいわっ!サイボーグでもっ人を好きになったりしても・・・・・いいでしょう





いい、さ。


・・・・キミが好きな人は・・・・誰?










訊く必要ない・・・・・

訊きたくないっっ

逃げてなんかいない。

勘違いでもないっ!


フランソワーズのこころの中には、彼女を独占しているヤツがいる・・・




まってる?

何を彼女がまってる?

何を?


・・・誰を?



なぜ?










「・・・フランソワーズ」


躯を車の中にくぐらせて、フランソワーズを呼びかけた。


「フランソワーズ」


フランソワーズのつむじが見える。


「・・・・フラン?」


逆さまに見る、フランソワーズの耳もとで小さく囁いた。



「・・・・Fanchon?」



フランソワーズの閉じられた目蓋が ぴくり と反応し、長い睫が揺れた。


「・・・ん~~~っ???」


寝ぼけた、眠りを妨げる声に抗議する、フランソワーズのくちびるから漏れた空気交じりの囁きに、ジョーの心臓は甘く痺れた。
ジョーはもう一度、彼女の兄だけが使うニックネームで彼女を呼んだ。





「Fanchon・・・・・・・?」









兄さん?






Fanchon・・・








僕 の 可愛い ・ ・ ・ ・ 


僕 の 可愛い 可愛い  Fanchon
   

お転婆 な Fanchon
泣き虫 で 意地っ張り な Fanchon


お菓子 が 大好き で 大きな空色 の 瞳 を 輝かせて


いっぱい いっぱい 笑って


僕 の 可愛い Fanchon


我慢しない で もっと ワガママ を 言って

辛いとき も 悲しいとき も 苦しいとき も

独り で 泣いてちゃ だめだよ



僕 の 可愛い Fanchon



優しい 優しい 優しい 君 は

一生懸命 に なりすぎて

周り が みえなく なって しまう けれど
   
みんな 君の 幸せ を 願って いるんだよ

 


がんばり すぎ ない で

もっと 頼って


   


僕 の 可愛い Fanchon




笑って

   

僕 の 可愛い Fanchon




笑って


   


君 が 泣くと みんな が 悲しいんだ
君 が 辛いと みんな が 苦しいんだ

 
ちゃん と 見て



僕 の 可愛い 可愛い Fanchon


  


怖がらない で
恐れない で

   
   
もっと 自分 に 素直 に なって いいんだよ



みんな は 待って いるんだ

君 が 助け を もとめる 声 を

君 が 独り で 悩む より も 

みんな は 君 の 悩み を 一緒 に 解決 したいんだ



独り じゃない 

Fnachon は 独り じゃない よ 




みんな 僕 と 同じよう に Fanchon が 大好き なんだ 



僕 の 可愛い Fanchon







笑って
  
幸せになって





僕 の 可愛い Fanchon
君 の 幸せ の ためならっ 僕 の すべて の ハッピー・ポイント を あげるよ!



僕 の 可愛い Fanchon

愛してる よ !! Fanchon




素直 に なって

君 が 望む 幸せ を 見失わない で
   
我慢 しない で


もっと 自分 を 信じて


泣き虫 で 意地っ張り で 頑固 で ・ ・ ・ ・ 心配 だ よ 僕は




いつか 僕 の かわり に 君 を 守ってくる 人 が 現れてくれる ことを 祈ってる


君 が いつか 彼 に 出会える ように 僕 の ハッピー・ポイント を 使って しまおう!

   




瞳 を あけて ごらん









ほら ・ ・ ・ ・ ・ 












君 を 幸 せ に し て く れ る 人 が い る よ 












「・・・フランソワーズ?」




兄さんの声?
もう、思い出せないと思っていた・・・兄さんの声・・・・



兄さん、笑ってる。







嬉しい。
元気なのね?



兄さん、私もよ・・・




兄さん、ねえ、そんなに心配しないで?
もう、・・・そうやってまた子ども扱いをするんだからっ!

誰に似たのかって?
同じ血が流れているんですものっ!


泣き虫?
私が???

それは兄さんでしょっ!


私がお転婆で、頑固で、意地っ張りなら、兄さんもでしょ!
素直じゃなくてっ悪かったわね!


も!

自分だって、ダニエラが好きな癖にっ素直じゃないじゃないっ!
シスコンは卒業するんでしょ?




え・・・?



我慢なんか・・・してないわよ?
辛くなんか、ないわ。



・・・私は独りじゃないわ、仲間がいるもの!
大切な家族がいるの。


心配しないで!




・・・見失ったりしないわ。
大丈夫よ?

大切なものはちゃんと、ここ。私の胸の中にしまってあるわ・・・



そんな・・・そんな風に言わないで・・





もう、たくさんもらったから、兄さんのハッピー・ポイントは!



十分よ!!!









心配しないで?
兄さん、心配しなくても大丈夫よ・・・・・






私を・・・・・幸せに、してくれる・・・人?







だあれ?

兄さん以外に・・・いるの?















そんな 人 が いる の?















私 を ?



幸 せ に し て く れ る 人 ?
 





「・・・・フランソワーズ」




瞳 を あけて ごらん






ほら ・ ・ ・ ・ ・ 








「フラン・・・・フランソワーズ?」



兄さん?

瞳を・・開ければいいの?







耳元にかかる息。
フランソワーズのよく聞き慣れた声。
兄さんのような掠れたテノールでなく、しっとりとした優しい、混じった低音が少しだけ強く響く、心地よい声。


・・・呼んでるわ。


もう、行かないと・・・。
ごめんなさい、兄さん。


また、会えるわよね?







ーーー愛してる 大切 な 僕 の 可愛い Fanchon







愛してるわ、私も・・・兄さん・・・










「・・・フランソワーズ?」


名前を呼ばれて、フランソワーズはゆっくりと眠りの世界から浮かび上がってくる。
重たくなった目蓋を開けるのに、少しだけ時間がかかり、優しく名前を呼ぶ声に、耳を澄ました。

少しだけ躯を動かすと、背中に何かがぶつかる感触。
ここがベッドの上ではないことがわかる。


ここは・・・あれ???



目蓋をゆっくりとあけた。
ぼやけた視界に映った、グレーの固まりの隙間から黒い丸い輪。ガラスの向こう側が青い。



「・・・・フラン?」



呼ばれ慣れないニックネームに驚いて、”眼”にスイッチが入ってしまったかのように、急に視界がはっきりする。90度横向きになって見る、運転席と助手席のシート、その間から除く運転席のハンドル・・・フロントガラス一面に午後の青い空。





「・・・フランソワーズ、起きた?」


自分の名前を呼ぶ声と混じった息が、耳元にかかるほど、近い。
横向けになっていた上半身を仰向けになるように回転させる。途中で後部座席のバックシートに躯の回転を止められて、顔だけが上をむいた。


逆さまに見る、彼。



「・・・・・え・・・・・あ・・・・?」




栗色の、彼の長い前髪が、フランソワーズの頬につきそうで、つかない。
珍しく、明るい琥珀色の両目を見ることができた。

フランソワーズが躯を動かしたことで、ジョーの逆さまになったくちびる。の、動きがはっきりと空色の瞳に映る。


「・・・・ついた、よ?」
「・・・ジョー・・・?」
「・・・・よく、寝てた、ね」
「・・・・寝てた・・・?」
「・・・・・・とても・・・幸せそうだった、よ」







君 が いつか 彼 に 出会える ように 僕 の ハッピー・ポイント を 使って しまおう!







「・・・・・・・ジョー・・?」
「・・・・?」
「・・・・・・とても、素敵な、夢、を見た・・わ」
「・・・・ヨカッタ、ね」
「・・でも、どんな夢か・・・おもいだ・・せな・・い・・の・・・・・・」


フランソワーズは瞳を閉じて夢を思い出そうとする。
閉じられた目蓋の世界は闇。
ときおり外から差し込む光で、闇色の中に眩しい白が飛び込んでくる。



ジョーは目蓋を閉じてしまった、逆さまに見るフランソワーズを見つめる。
寝ている間に乾いてしまった、彼女のくちびるから瞳を逸らすことができない。



「・・・・・・・・・・・思い出さなくて、いいんだ、よ。夢は」
「・・・・」


後部座席にくぐらせた躯を支える手が、震え出す。
慌てて隠れている空色を呼び戻すように、ジョーは声をかけた。



しっとりとして長い睫がゆるやかに動いて、目蓋は開けられた。


「・・・・・・きっとその夢は正夢、だから・・・」
「ま さ ゆ め ?」
「・・・・・になる、夢」
「・・・?」
「・・・・忘れてしまった夢は、いつか・・・現実になるから」
「現実に・・?」
「・・・・・・・そう、正夢は・・現実になる夢・・と、言うこと」


フランソワーズはジョーの言葉を追いかける。
20cmも離れていない距離に、自分を上からのぞき込むジョーの逆さまの顔。


視線を少し”下げる”と彼の琥珀色の両目。は、優しい。







ーーーどんな夢だった? 
   キミが幸せになる、夢だった?

   いつか、それが現実に・・キミの近い未来に訪れることを祈っている。





彼は躯を後ろへ引いて、後部座席から車にくぐらせていた躯を外へと移動させる。
ゆっくりとフランソワーズは起きあがってから、まだ眠気のせいで動きが鈍い躯を引きずるようにして、車から降りた。
車を停めた周りには何も陽の光を遮るものがなく、車内ですっと閉じられていた瞳には、晴れた午後の光は強すぎた。フランソワーズは俯いて瞳が光に慣れるのをまつ。


「・・・どうした?」


車のドアも閉めず、立ちつくして俯いてしまったフランソワーズに、ジョーの心配そうな声。


「あ・・・ちょっと眩しいの・・」
「・・・・・大丈夫?」
「すぐ、慣れるわ」
「・・・博士、呼ぶ?」


フランソワーズはジョーの言葉にくすっと笑った。

「・・・大丈夫よ、ジョー。急に明るいところに出て、瞳が慣れてないだけ・・・・」


フランソワーズは一度強く目蓋を閉じた。
俯いていた顔を上げて、時間をかけて目蓋を開いていく。

滲んだ白い光。
ぼやけた色は青。

人のシルエット。


その向こうに、見慣れた邸・・・。



瞳 を あけて ごらん






ほら ・ ・ ・ ・ ・ 












Fanchon を 幸 せ に し て く れ る 人 が い る よ 









「フランソワーズ・・・」


栗色の髪が、風光る彩雲に輝いた。
ジョーはフランソワーズの正面に立ち、彼女の顔をのぞき込む。

「ジョー・・」

「・・・・・昼を用意してくれているって言っていたから、俺もこっちで食べて帰る、よ」
「帳大人の御飯、久し振りね!」


フランソワーズは微笑んだ。










====30 に 続 く



・ちょっと呟く・

今回は・・・長い!・・・すみません。どこで切っていいのか、わかりませんでした!

やっと日常(?)に戻った・・・・
さくらちゃん、尻切れトンボじゃないですから!

・・・ほっこりしたいなあ。
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